【全3回・第1回】仕組み編
病院を受診するたびに窓口でお金を払います。当たり前のことのように感じますが、「その金額はどうやって決まっているのか」と考えたことはあるでしょうか。
医療費の計算のしくみを知っておくことは、医療費の節約や、これから解説する制度改定の影響を理解するうえでも役に立ちます。今回はその土台となる「診療報酬」と「薬価」の基本を解説します。
1.診療報酬とは何か
病院やクリニックで診察を受けると、医療費が請求されます。この医療費の計算に使われるのが「診療報酬」です。
診療報酬とは、医療行為のひとつひとつに設定された「点数」のことです。初診料、再診料、血液検査、レントゲン、手術、入院料など、あらゆる医療行為に点数が定められており、その合計が医療費の総額になります。
1点=10円。初診料が291点なら、医療費は2,910円。患者はそのうち自己負担割合(多くの場合3割)の873円を窓口で支払います。
残りの7割(2,037円)は、患者が加入している健康保険から医療機関に支払われます。私たちが毎月納めている保険料は、こうした形で医療費の支払いに使われています。
なぜ全員同じ金額なのか
全国どの病院に行っても、同じ診療行為なら同じ点数が適用されます。これは診療報酬が国によって一律に定められているからです。
自由診療(保険外診療)の場合は医療機関が自由に価格を設定できますが、健康保険が使える保険診療の範囲では、点数表に基づいた金額しか請求できません。「有名病院だから高い」ということは、保険診療の範囲では起きません。
誰がどうやって決めるのか
診療報酬の点数は、厚生労働大臣が「中央社会保険医療協議会(中医協)」という審議機関に諮問し、その答申をもとに改定されます。
中医協は3つのグループで構成されています。
- 支払側:健康保険組合・事業主など、保険料を払う側
- 診療側:医師・歯科医師・薬剤師など、医療を提供する側
- 公益委員:中立的な立場で審議する有識者
この3者が議論を重ねて決まった点数が、原則2年に1度改定されます。この改定が「診療報酬改定」です。
2.薬価とは何か
医療費を構成するのは診療行為の点数だけではありません。処方された薬の費用も医療費に含まれます。この薬の公定価格が「薬価」です。
薬価は健康保険で使われる薬ごとに国が定めた価格で、医療機関や薬局はこの価格でしか患者に請求できません。薬価も診療報酬と同様に定期的に改定されます。
薬価差益という仕組み
医療機関や薬局は薬をメーカーや卸業者から「実勢価格」で仕入れます。この実勢価格は薬価より安いことが多く、その差額が医療機関や薬局の収益になります。これを「薬価差益」といいます。
薬価1,000円の薬を800円で仕入れられれば、差額の200円が薬価差益になります。
薬価改定では、この実勢価格と薬価の乖離を縮める方向で価格が引き下げられます。薬価が下がれば薬価差益も縮小するため、医療機関や薬局の収益に直接影響します。
3.なぜ病院と薬局が分かれているのか
現在の日本では、病院で処方箋をもらい、外の薬局で薬を受け取るのが一般的です。これを「医薬分業」といいます。しかし、なぜわざわざ分けているのでしょうか。
もともとは病院で薬を渡していた
かつての日本では、医師が診察して薬を処方し、そのまま院内で渡すのが当たり前でした。薬は病院で完結していたのです。
しかし1990年代から、院外処方(処方箋を発行して外の薬局で調剤してもらう形)が政策的に推進されました。主な理由は2つです。
- 薬の適正使用:薬剤師が処方内容を独立した立場でチェックすることで、飲み合わせの問題や過剰処方を防ぐ
- 医療費の適正化:病院が薬の販売で過剰な利益を得る構造を是正する
こうして今日の「病院で診察→処方箋をもらう→薬局で薬を受け取る」という流れが定着しました。
院内で使う薬は薬局を経由しない
ただし、すべての薬が薬局を経由するわけではありません。入院中や手術で使われる薬は、病院が直接仕入れて院内で使います。患者が外に持ち出すことはなく、薬局は関係しません。
具体的にはこのような薬が該当します。
- 全身麻酔薬(手術で意識を失わせるために使われる薬)
- 術後の点滴(痛み止め・抗生剤・栄養補給など)
- 抗がん剤の点滴投与
- ICU(集中治療室)での循環管理薬
こうした薬は薬価差益が丸ごと病院の収益になります。高額な抗がん剤を多く使う病院ほど、薬価改定の影響を大きく受ける理由がここにあります。
| 院外処方(外来) | 院内使用(入院・手術) | |
|---|---|---|
| 薬の受け取り場所 | 院外の薬局 | 病院内 |
| 薬価差益の帰属 | 薬局 | 病院 |
| 薬剤師のチェック | あり | 病院薬剤師が対応 |
| 患者の持ち帰り | あり | なし |
まとめ
診療報酬と薬価の基本をおさえると、医療費の構造が見えてきます。
- 医療費は「診療報酬(点数×10円)」で計算され、全国一律のルールで決まる
- 薬にも「薬価」という公定価格があり、定期的に改定される
- 病院と薬局が分かれているのは1990年代の医薬分業推進の結果
- 入院・手術で使う薬は薬局を経由せず、病院が直接仕入れて使う
次回は、2026年の診療報酬・薬価改定で「あなたの医療費が具体的にどう変わるのか」を解説します。OTC類似薬への追加負担や先発品の選定療養など、生活に直結する変化を取り上げます。
※本記事は執筆時点の情報をもとに作成しています。制度の詳細や個別の負担額については、厚生労働省の公式サイトまたはかかりつけの医師・薬剤師にご確認ください。
【参考資料】
・厚生労働省「令和8年度診療報酬改定について」
・厚生労働省「診療報酬の仕組み」
・社会保険医療協議会法第2条・第3条



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