【労働基準法シリーズ 第2回】
前回は変形労働時間制を取り上げました。
今回は割増賃金です。社労士試験の出題範囲の中でも、働いている人なら誰もが一番身近に感じられるテーマだと思ったからです。
私は食品工場で3交代勤務をしていました。3交代制は勤務時間があらかじめシフトで決まっているため、法定労働時間を超えた「残業」がほとんど発生しない働き方です。残業代がほぼつかない代わりに、深夜手当で給与を補う形でした。基本給が低い分、深夜の時間帯に入ることで収入を保っていた、という感覚です。
そういう職場にいたからこそ、割増賃金については人一倍敏感でした。「本当に法律どおりに支払われているのか」——会社を安易に信じない方がいい、とどこかで思っていました。
勉強を始めて制度の中身を知るほど、その感覚は強くなりました。今回はその経験も踏まえながら、割増賃金の仕組みを解説します。
1.割増賃金とは何か
労働基準法の原則は1日8時間、週40時間です。この「法定労働時間」を超えて働かせる場合、会社は通常の賃金に割増しを加えて支払わなければなりません。これが割増賃金です。
「残業代」と呼ばれるものの法律上の根拠がここにあります。
割増賃金が発生するのは、大きく分けて3つの場面です。
- 時間外労働:1日8時間・週40時間を超えた労働
- 休日労働:法定休日(週1日)に働かせた場合
- 深夜労働:午後10時から午前5時の間の労働
この3つに対して、それぞれ異なる割増率が定められています。
2.割増率と、重なったときの考え方
割増率の数字はシンプルです。時間外は25%以上、休日は35%以上、深夜は25%以上。数値さえ頭に入っていれば、重なった場合も単純な足し算で導けます。
整理するとこうなります。
| 状況 | 割増率 |
|---|---|
| 時間外(月60時間以下) | 25%以上 |
| 時間外(月60時間超) | 50%以上 |
| 法定休日労働 | 35%以上 |
| 深夜労働 | 25%以上 |
| 時間外(月60時間以下)+深夜 | 50%以上(25+25) |
| 時間外(月60時間超)+深夜 | 75%以上(50+25) |
| 法定休日+深夜 | 60%以上(35+25) |
※割増率は記事作成時点のものです。最新情報は記事末尾をご確認ください。
むしろ苦労したのは、次に述べる「法定休日と所定休日の違い」のほうでした。
3.「法定休日」と「所定休日」——この区別で混乱した
勉強を始めたころ、引っかかったのが「休日」の定義です。
労働基準法が定める「法定休日」は、週に1日(または4週4日)です。「35%以上の割増」が適用されるのは、この法定休日に働かせた場合です。
一方で、多くの会社は週2日休みを設けています。この「法定休日ではないもう1日の休み」を「所定休日(法定外休日)」と呼びます。
所定休日に出勤した場合、休日割増(35%)は適用されません。ただし、その日の労働が週の法定労働時間(40時間)を超えていれば、時間外割増(25%)が適用されます。
「休日出勤なのに35%じゃないの?」と最初は思いました。でも「法定休日かどうか」が判断の分岐点だとわかってから、混乱が減りました。
「所定」という言葉は他の法律にも出てくる
ここで少し寄り道をします。
「所定休日」という言葉に出会ったとき、「所定ってどういう意味だっけ」と改めて確認した記憶があります。「所定」は「あらかじめ定められた」という意味で、就業規則や労働契約で決めたものを指します。
この「所定」という言葉、社労士試験では労働基準法以外にも登場します。健康保険法や雇用保険法では「所定労働時間」「所定労働日数」という形で出てきます。標準報酬月額の算定や、雇用保険の給付日数の計算などがその例です。
ただ「所定休日」という言葉に限ると、これは労働基準法が定める「法定休日」との対比で生まれた概念で、健康保険法や年金法の条文には登場しません。他の法律では休日の区分をそこまで細かく問う必要がないからです。
つまり整理するとこうなります。
- 「所定労働時間」「所定労働日数」:労働基準法だけでなく、健康保険法・雇用保険法などにも登場する
- 「所定休日」:実質的に労働基準法の文脈でのみ使われる言葉
社労士試験は複数の法律をまたいで勉強するので、「所定」という言葉がどの文脈で出てきているかを意識しておくと、混乱が少し減ると思います。
4.「かつうべっしじゅうりんいち」で得点を取りこぼさない
もうひとつ試験で問われやすいのが、「何を基準に割増賃金を計算するか」という問題です。
割増賃金は「通常の労働時間の賃金」を基礎に計算します。ただしこの「基礎となる賃金」には、含めなくてよいものが法律で定められています。
含めなくてよい代表的なものは以下のとおりです。
- 家族手当
- 通勤手当
- 別居手当
- 子女教育手当
- 住宅手当
- 臨時に支払われた賃金
- 1ヶ月を超える期間ごとに支払われる賃金(賞与など)
私は各手当の頭文字を並べた合言葉で覚えていました。「家・通・別・子・住・臨・1(かつうべっしじゅうりんいち)」という具合です。これさえ頭に入っていれば「この手当は基礎に含まれるか?」という問題はすぐ解ける、取りこぼしたくない論点です。
ただ、当時独身だった自分には縁のない手当ばかりで、覚えながら少し悲しい気持ちになっていました。家族手当も子女教育手当も、臨時に支払われた賃金ももらった記憶がない。同じ気持ちで覚えた受験生は、意外と多いのではないかと思っています。
5.法定どおりの企業、上乗せする企業——実態はどうなのか
試験の勉強をしていると「25%以上」「35%以上」という表現が出てきます。この「以上」が実際の職場でどう機能しているのか、少し気になった方もいるかもしれません。
調査によると、大多数の企業は法定の最低水準(25%)で運用しており、企業規模が大きいほど上乗せしているケースが増える傾向があります。
では、上乗せしている企業はどんな職場なのでしょうか。
「従業員を大切にしているからこそ上乗せしている」と見ることもできます。大企業ほど上乗せ率が高い傾向は、人事制度全体への投資余力の表れとも言えます。
一方で「残業がきついから割増率を高くして離職を防いでいる」という側面を持つ職場が混在しているのも事実です。
見分けるポイントは、割増率の高さ単体ではなく、平均残業時間・離職率・有休取得率などと合わせて見ることです。割増率が高くて残業時間も短い企業は前者寄り、割増率は高いが残業時間も長い企業は後者寄りと判断できます。
そもそも割増賃金の制度には「割増率を上げることで残業を抑止する」という立法上の意図があります。残業が高くつくから減らそう、と経営者が動くことを期待した仕組みです。それが機能している企業と、高い割増率を払いながら残業を常態化させている企業では、職場の文化がまるで異なります。
試験で「25%以上」という表現を覚えるとき、この「以上」の意味を実態と結びつけて考えておくと、制度の趣旨まで理解できるようになります。
まとめ
割増賃金は働く人なら誰もが関わる制度です。「法定休日と所定休日の違い」や「かつうべっしじゅうりんいち」のような整理を知っておくと、確実に取りたい問題で取りこぼしにくくなります。
次回は労働基準法シリーズの第3回として、年次有給休暇を取り上げます。
※本記事中の割増率および上乗せ企業の実態に関する記述は記事作成時点の情報をもとにしています。最新の情報は厚生労働省の公式サイトでご確認ください。
※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。


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