【労働基準法シリーズ 第3回】
前回は割増賃金を取り上げました。
今回は年次有給休暇です。働く人なら誰もが知っている「有給」ですが、社労士試験で問われるとなると、付与日数の数字、比例付与の計算、出勤率の要件など、意外とつまずきやすい論点が詰まっています。
私は食品工場で3交代勤務をしていました。シフトでガチガチに人員が組まれている職場だったので、正直なところ「有給を自由に取る」という発想があまりない環境でした。誰かが休めばそのコマに穴が空く。だから取りづらい。そんな空気が現場にはありました。
だからこそ勉強を始めて「有給は労働者の権利で、要件を満たせば当然に発生する」と知ったときは、少し複雑な気持ちになった記憶があります。制度としては保障されているのに、現場では使いにくい。
正直に言うと、働き始めたころは、この使いにくさが「自分の就職先がたまたま悪いのか、世の中とはこういうものなのか」もわかっていませんでした。比べる対象がなかったからです。でも社労士の勉強で法律の最低基準を知り、それを上回る待遇の会社があると知るほどに、自分の職場が法律ぎりぎりから動こうとしないことが見えてきました。就職氷河期の世代で「選べる立場じゃない」という諦めムードがあったことは否めませんが、それを差し引いても、条件をろくに調べず入れるところに入った当時の自分の思慮のなさや幼さを思い出します。「就職先を間違えたのかもしれない」と悔やむ気持ちが湧いてきたのを、今でも覚えています。
逆に言えば、法律以上の待遇を約束してくれている会社に就職できた人は、それだけで恵まれています。そして大事なのは、それが「当たり前ではない」と認識できているかどうかだと思います。世の中には最低基準ぎりぎりの会社も少なくありません。その中で手厚い待遇を受けられているとわかっていれば、日々の会社への向き合い方も、自然と前向きで適切なものになっていくのではないでしょうか。知識は、自分の置かれた環境を客観的に測るものさしにもなる。私はこの分野を勉強しながら、そう感じました。
今回はその経験も交えながら、年次有給休暇の仕組みを整理していきます。
1.有給はどうやって発生するのか
年次有給休暇は、次の2つの要件を満たした労働者に発生します。
- 雇入れの日から6ヶ月間継続して勤務していること
- その6ヶ月間の全労働日の8割以上出勤していること
この2つを満たすと、雇入れから6ヶ月を経過した日に最初の有給(原則10日)が発生します。その後は1年ごとに、同じく「8割以上出勤」を満たすことで新しい有給が発生していきます。
有休という言葉自体は、もちろん知っていました。ただ、それが他の「休暇」とどう違うのか、当時の私は特に区別していませんでした。会社を休む、という意味では夏季休暇も年末年始の休みも有休も、ぜんぶひとくくりの「休み」。そのくらいの認識だったと思います。
勉強を始めて、有給は会社が好意で与えるものではなく、要件を満たせば法律上当然に発生するものだと知りました。それ自体は新鮮な知識でした。
ただ、当時の自分が強く感じたのは「権利かどうか」という話よりも、もっと現実的なことでした。勤続年数が上がれば、付与される日数は年々増えていきます。でも、その日数が増えたところで、取りづらい職場では結局使えない。増えても消えていくだけなら意味がないな——そんなふうに思った記憶があります。制度の建前と、自分の職場の現実とのギャップを、この分野ではいちばん強く感じていました。
なお「8割以上出勤」の出勤率は、出勤日数を全労働日で割って計算します。この計算では、業務上の負傷・疾病による休業や、産前産後休業、育児・介護休業の期間などは「出勤したもの」として扱われるなど、細かい取り扱いが定められています。試験でも問われやすいポイントです。
2.付与日数の「10・11・12・14・16・18・20」
通常の労働者(週所定労働日数が5日以上、または週の所定労働時間が30時間以上の人)の付与日数は、勤続年数に応じて増えていきます。
| 継続勤務年数 | 付与日数 |
|---|---|
| 6ヶ月 | 10日 |
| 1年6ヶ月 | 11日 |
| 2年6ヶ月 | 12日 |
| 3年6ヶ月 | 14日 |
| 4年6ヶ月 | 16日 |
| 5年6ヶ月 | 18日 |
| 6年6ヶ月以上 | 20日 |
この数字、私は最初うまく覚えられませんでした。何がやっかいかというと、増え方が一定ではない点です。
最初の3つは「10・11・12」と1ずつ増えるのに、3年6ヶ月のところで急に「14」になる。13を飛ばすんです。ここで頭がこんがらがる。本番で「3年6ヶ月のところ、13だったか14だったか」と迷った記憶があります。
私の場合は、この表を眺めているうちにひとつの特徴に気づきました。奇数は「11」しかないんです。10からスタートして、最後の20まで、奇数が出てくるのは1年6ヶ月の「11」だけ。あとは全部偶数で並んでいます。「奇数が出るのは2回目(1年6ヶ月)の11だけ」と覚えてしまえば、13と14で迷ったときの手がかりになりました。13は奇数だから違う、と判断できるわけです。語呂合わせで覚える人も多い分野なので、自分に合う覚え方を探してみるといいと思います。過去問を繰り返すうちに、この表は自然と出てくるようになりました。
この表はあくまで「最低基準」
ひとつ補足しておきたいのが、この日数はあくまで法律が定めた最低ラインだということです。
労働基準法は「これ以上は与えなさい」という下限を定めたものなので、会社が法律を上回る日数を付与することは何の問題もありません。入社6ヶ月で10日ではなく15日を付与したり、1年6ヶ月の時点で11日ではなく20日を付与したり、ということも、会社の制度として自由にできます。福利厚生の手厚い会社では、こうした上乗せが行われていることがあります。
付与のタイミングも同じです。法律上は「雇入れから6ヶ月経過した日」が最初の基準日ですが、これを前倒しするのは自由です。たとえば入社初日にいきなり有給を付与したり、6ヶ月を待たずに付与したりしても、労働者に有利な扱いなので問題ありません。また、人によって基準日がバラバラだと管理が大変なので、全社員の基準日を特定の日にそろえる(前倒しして統一する)運用をしている会社もあります。
試験では原則のルール(6ヶ月・8割・表の日数)を正確に覚えることが中心になりますが、「これはあくまで最低基準で、労働者に有利な方向(日数の上乗せ・基準日の前倒し)には会社が自由に動ける」という前提を押さえておくと、実務の話とつながって理解が深まります。私自身、勉強しながら「自分の職場はどうだったかな」と振り返ったとき、この最低基準という考え方がいちばん腑に落ちました。
3.パートでも有給はある——比例付与
「パートやアルバイトには有給がない」と思っている人が、世の中にはまだ少なくありません。でもこれは誤解です。
週の所定労働日数が少ない人や労働時間が短い人でも、要件を満たせば有給は発生します。ただし日数が少なくなる。これを比例付与といいます。
比例付与の対象になるのは、次の両方に当てはまる人です。
- 週の所定労働日数が4日以下(または年間の所定労働日数が216日以下)
- かつ、週の所定労働時間が30時間未満
ここで勉強中に引っかかったのが、「日数」と「時間」の両方を見るという点でした。
たとえば週4日勤務でも、1日8時間で週32時間働いていれば、週30時間以上なので比例付与の対象になりません。通常の労働者と同じ日数(6ヶ月で10日)が付与されます。「日数が少ないから比例付与」と早合点すると間違える。労働時間も必ず確認する、というのが落とし穴を避けるコツでした。
比例付与の日数は、通常の付与日数を、週の所定労働日数の比率で按分して計算します。
通常の付与日数 × (その人の週所定労働日数 ÷ 5.2)(1日未満の端数は切り捨て)
たとえば週4日勤務で6ヶ月勤続なら、「10日 × 4 ÷ 5.2 ≒ 7.69」で、端数を切り捨てて7日です。
この「5.2」という数字が何なのか、最初は不思議でした。これは通常の労働者の週所定労働日数を年換算したもの、というイメージで私は納得していました。計算式自体は一度理解すれば難しくありませんが、端数処理など細かい部分もあるので、私の場合は過去問で実際に手を動かして慣れました。
4.年5日の取得義務——比較的新しいルール
有給を勉強するうえで、知識をアップデートしておきたいのが「年5日の取得義務」です。
これは、年10日以上の有給が付与される労働者に対して、会社が付与した日から1年以内に最低5日は取得させなければならないというルールです。労働者が自分から請求しなくても、会社が時季を指定してでも取らせる義務がある、という点が特徴です。
このルールは2019年4月から施行されたもので、労働基準法の中では比較的新しい部分にあたります。私が受験勉強の中心にしていた時期との関係で言うと、後から加わった論点という印象が強いです。だからこそ、古いテキストや過去の体験談だけを頼りにすると、この部分が抜け落ちることがあります。
ここでテキストについて一言だけ。最新年度版が必ずしも絶対に必要かというと、私はそうとも言い切れないと思っています。1年前くらいのものであれば、改正点を自分で調べたり、今ならAIに調べてもらったりして十分に補える範囲です。ただ、そこに脳のリソースを使いたくない、勉強の中身だけに集中したい、万全を期したいという方は、最新年度版を買っておくのが無難でしょう。私の場合は、改正の有無を気にしながら古い教材を使うより、安心して中身に集中できる状態を作るほうが、結果的に効率がよかったと感じています。
ちなみに、この義務に違反した場合は、対象となる労働者1人につき罰則(罰金)の対象になりうるとされています。「有給は権利だが、取らせるのは義務」という方向に制度が動いてきた、という大きな流れも一緒に押さえておくと、理解が立体的になると思います。
5.「権利はあるのに取りにくい」をどう考えるか
最後に、私自身の体験から感じたことを書いておきます。
冒頭で触れたとおり、私のいた食品工場は有給が取りにくい職場でした。シフトに穴を空けることへの後ろめたさ。誰かが休めば他の誰かにしわ寄せがいく構造。制度上は当然に発生する権利なのに、現場の空気がそれを許しにくくしていました。
勉強を進める中で知ったのが、時季変更権という考え方です。労働者には有給を取る時季を指定する権利がありますが、会社の側にも「事業の正常な運営を妨げる場合」には時季を変更してもらう権利がある。ただしこれは「忙しいから」という理由で安易に使えるものではなく、認められる範囲は限定的だとされています。
ただ、正直に言うと、私はこの時季変更権が実際に発動された場面を見たことがありません。テキストで学んだときは「会社がそんな権利を行使してくることがあるのか」と身構えましたが、現場でそれが表に出てくることはほとんどなかった、というのが実感です。
なぜかと考えると、たぶんそこに至る前に、みんなが無意識に調整しているからなのだと思います。「この時期は忙しいから少しずらそうか」「この日はあの人が休むから自分は別の日にしよう」。誰かが明確にルールを振りかざすわけでもなく、空気を読みながらお互いに時季をずらしていく。会社が権利を発動するまでもなく、現場の中で自然に調和が取れてしまう。これが日本の職場の特徴なのかもしれない、と勉強を通じて改めて感じました。
法律上は「労働者の指定権」対「会社の変更権」という対立する構図で説明されますが、実際の職場ではその対立が表面化する前に、当事者同士でならしてしまうことが多い。試験では条文の構図を正確に覚える必要がありますが、それが現実にどう機能している(あるいは機能する前に解消されている)のかを知っておくと、制度の理解がより立体的になると思います。
この「時季変更権」と、先ほどの「年5日の取得義務」を並べて見ると、制度が「労働者が有給を取りやすくする方向」へ少しずつ動いてきたことが見えてきます。私が現場で感じていた取りにくさは、まさにこの制度が解決しようとしている課題そのものだったんだな、と勉強を通じて腑に落ちました。
権利であっても、現場は人で回っている
ただ、制度の話とは別に、実感として思うこともあります。
有給はたしかに労働者の権利です。取ることに引け目を感じる必要はありません。でも、自分が休んだ日に仕事をフォローしてくれるのは、法律でも会社でもなく、隣にいる同僚です。シフトに入ってくれた人、自分の担当を肩代わりしてくれた人。その人への一言の感謝があるかないかで、職場の雰囲気はずいぶん変わると私は感じてきました。
「権利だから当然」という態度だけで休みを重ねれば、たとえ法律上は正しくても、現場の空気は少しずつ悪くなっていきます。逆に、お互いに「ありがとう」「お互いさま」と言い合える関係があれば、有給はぐっと取りやすくなる。制度が保障しているのは「取る権利」までで、「取りやすい空気」までは保障してくれません。そこを作るのは、結局その職場にいる人たち自身なのだと思います。
試験対策としては数字や要件を覚えることが中心になりますが、「なぜこの制度があるのか」という背景を自分の経験と結びつけておくと、記憶に残りやすいというのは、このシリーズで何度もお伝えしてきたとおりです。年次有給休暇は、それを実感しやすい分野だったと私は感じています。
まとめ
年次有給休暇は、働く人にとって身近でありながら、試験では付与日数・比例付与・取得義務など、覚えるべき数字と要件が多い分野です。
- 発生要件は「6ヶ月継続勤務」と「全労働日の8割以上出勤」
- 通常労働者の付与日数は「10・11・12・14・16・18・20」(奇数は11だけ)
- 表はあくまで最低基準で、日数の上乗せや基準日の前倒しは会社が自由にできる
- パートでも要件を満たせば比例付与で有給は発生する
- 年10日以上付与される人には「年5日の取得義務」がある
数字は丸暗記が必要な部分もありますが、制度の趣旨を理解しておくと定着しやすい、というのが私の実感でした。同じように年休でつまずいている方の参考になれば幸いです。
次回は労働基準法シリーズの第4回として、労働時間・休憩・休日の基本ルールを取り上げる予定です。
なお、本記事で挙げた付与日数・比例付与の計算式・年5日取得義務といった数字や要件は、いずれも記事作成時点のものです。法改正で変わる可能性があるので、受験対策や実務で使う際は、下記の一次情報や最新のテキストで必ず確認してください。
※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。
【一次情報の確認先】
- e-Gov法令検索「労働基準法」第39条(年次有給休暇の条文そのもの)
- 厚生労働省「年次有給休暇の付与日数は法律で決まっています」(付与日数・比例付与のリーフレット)
- 厚生労働省「年5日の年次有給休暇の確実な取得 わかりやすい解説」(取得義務の解説資料)
数字や要件を引用するときは、上記の厚生労働省リーフレットと条文を突き合わせて確認すると、出典がはっきりして安心です。


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