【労働基準法シリーズ 第9回】
前回は就業規則を取り上げました。
今回は休業手当と平均賃金です。
私が働いていた食品工場は、3交代でほぼ止まらない職場でした。設備が動き続け、人がシフトで入れ替わりながら生産を続ける。「会社の都合で仕事が休みになる」という発想自体が、当時の私にはありませんでした。
社労士の勉強で「休業手当」という制度を初めて知ったとき、最初に思ったのは「ただでさえ安い賃金の、さらに60%か」ということでした。保障があるのはありがたい。でもその水準で生活するのは相当苦しいだろうな——制度を知って真っ先に浮かんだのは、そんな現実的な感想でした。
この記事では、休業手当の仕組みと、その計算の土台になる平均賃金について、私が勉強でつまずいたポイントをもとに整理します。平均賃金は「暦日数で割るのか、労働日数で割るのか」「どの期間・どの賃金を除外するのか」と、混乱しやすい論点が詰まった分野です。同じところでつまずいている方の参考になれば幸いです。
1. 休業手当とは——労基法26条
休業手当は、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合に、会社が労働者へ平均賃金の100分の60以上の手当を支払わなければならない、という制度です。
働く側からすれば、「会社の都合で仕事がなくなったのに、収入がゼロになるのは困る」という場面を救うための仕組みです。ゼロになるよりはずっといい。ただ、平均賃金の60%という水準は、もともとの賃金が低ければなおさら厳しい金額になります。あくまで最低限の生活保障のライン、というのが私の率直な感想です。
冒頭に書いたとおり、私の職場ではこの制度が登場する場面がありませんでした。工場は止まらない。仕事がなくて帰される日もない。制度と無縁のまま10年以上働いていたわけです。
ただ、無縁だったからこそ、勉強したときに「世の中には会社都合で仕事が止まる職場がある」「そのときのための制度がある」と知ったのは新鮮でした。自分の経験の外側にある制度は、意識して勉強しないと頭に入ってきません。私にとって休業手当は、まさにそういう分野でした。
2. 「使用者の責に帰すべき事由」の線引き
休業手当のポイントは、どんな休業なら対象になるのかという線引きです。
対象になるのは、たとえばこんなケースです。
- 資材や原材料が調達できず、生産ができない
- 注文の減少や経営難による操業停止
- 親会社の経営難の影響による休業
一方で、対象にならないのが不可抗力による休業です。天災事変など、会社の力ではどうにもならない事由による休業は、「使用者の責に帰すべき事由」にあたりません。
ここで試験対策として押さえておきたいのは、労基法26条の「使用者の責に帰すべき事由」は、民法でいう帰責事由よりも広い概念だとされている点です。会社に落ち度がなくても、経営上の障害(資材不足や資金難など)は会社側の領域の問題として、休業手当の対象に含まれます。「会社が悪いとき」ではなく「会社側の事情のとき」とイメージしておくと、線引きが頭に入りやすいと思います。
体調不良による休業は、休業手当の対象ではない
ここでひとつ、私が制度の守備範囲を実感した話があります。
私の知人に、体調を崩して長く仕事を休んだ人がいます。その話を聞いたとき、勉強したばかりの私は「こういうとき、休業手当が出るのだろうか」と考えました。
答えは、出ません。本人の体調不良による休業は、「使用者の責に帰すべき事由」ではないからです。
では何も保障がないのかというと、そうではありません。私傷病で働けない場合は、労働基準法ではなく健康保険の傷病手当金の領域になります(業務上の傷病なら労災保険の休業補償給付)。同じ「休業」という言葉でも、誰の責任・どんな原因による休業かで、適用される制度がまったく変わるわけです。
| 休業の原因 | 適用される制度 | 根拠となる法律 |
|---|---|---|
| 会社側の事情(経営難・資材不足など) | 休業手当 | 労働基準法 |
| 業務上の負傷・疾病 | 休業補償給付 | 労災保険法 |
| 業務外の負傷・疾病(私傷病) | 傷病手当金 | 健康保険法 |
この整理は、試験でも実生活でも役に立ちます。傷病手当金や労災の給付は社会保険科目の話になるので、このシリーズでは深入りしませんが、「休業=休業手当、とは限らない」という入り口だけ、ここで押さえておいてください。
3. 平均賃金の計算——私が混乱したポイント①「何で割るのか」
休業手当の「平均賃金の60%以上」という基準。この平均賃金の計算が、私にとってのつまずきポイントでした。
原則はこうです。
平均賃金 = 算定事由の発生した日以前3か月間の賃金総額 ÷ その期間の総日数(暦日数)
ポイントは、割る数が労働日数ではなく暦日数だという点です。土日も祝日も含めた、カレンダー上のすべての日数で割ります。だから平均賃金は「1日あたりの給料の感覚」よりも低い金額になります。
ところが、これで終わりではありません。最低保障という仕組みがあります。賃金が日給制・時給制・出来高払制などの場合、暦日数で割ると金額が極端に低くなることがあるため、
賃金総額 ÷ その期間の労働日数 × 60%
で計算した額を下回ってはならない、とされています。
つまり、暦日数で割る計算と、労働日数で割って60%を掛ける計算の両方が登場するんです。私はここで「あれ、どっちで割るんだっけ?」と何度も混乱しました。
私なりの整理はこうです。原則は暦日数。労働日数が出てくるのは最低保障のときだけ。そして最低保障には60%が付く。「労働日数と60%はセット」と覚えてからは、迷わなくなりました。
4. 算定から除外するもの——混乱したポイント②
もうひとつのつまずきが、計算から除外する期間と賃金です。
除外する期間
次の期間は、算定期間(3か月)からも賃金総額からも除外します。
- 業務上の負傷・疾病による休業期間
- 産前産後休業の期間
- 使用者の責に帰すべき事由による休業期間
- 育児休業・介護休業の期間
- 試用期間
なぜ除外するのか。これらの期間は賃金が支払われないか低くなるため、計算に含めると平均賃金が不当に低くなってしまうからです。労働者に不利にならないように除外する——この趣旨を押さえると、個別に丸暗記しなくても「賃金が下がる期間は除く」という軸で思い出せるようになります。
除外する賃金
賃金総額から除外するものもあります。
- 臨時に支払われた賃金(結婚手当など)
- 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(年2回の賞与など)
- 法令・労働協約に基づかない現物給与
私がややこしく感じたのは賞与の扱いでした。「3か月を超える期間ごとに支払われる賃金」は除外——つまり年2回の賞与は計算に入れない。逆に言えば、毎月の通勤手当や精皆勤手当のような、定期的に支払われるものは含まれます。「臨時のもの・たまにしか出ないものは除く、毎月のものは入れる」というイメージで整理しました。
ちなみに私は、この除外項目を頭文字で覚えていました。「業産使育試臨三法(ぎょうさんしいくし・りんさんほう)」。前半の「業・産・使・育・試」が除外する期間、後半の「臨・三・法」が除外する賃金です。呪文のようですが、本番で「除外するのはどれだったか」と迷ったとき、この頭文字の並びが手がかりになってくれました。
5. 平均賃金は労基法のあちこちで顔を出す
平均賃金がやっかいなのは、休業手当だけの話ではないからです。労働基準法の中で、平均賃金は次のような場面で使われます。
| 場面 | 内容 |
|---|---|
| 解雇予告手当 | 予告に代えて平均賃金の30日分以上を支払う |
| 休業手当 | 平均賃金の60%以上 |
| 年次有給休暇の賃金 | 支払い方法の選択肢のひとつ |
| 減給制裁の制限 | 1回の額は平均賃金の1日分の半額以内、総額は一賃金支払期の賃金総額の10分の1以内 |
| 災害補償 | 各種補償の計算の基礎 |
第6回で取り上げた解雇予告手当も、計算の土台はこの平均賃金です。つまり平均賃金は、労働基準法を横断するインフラのような存在です。一度計算方法を固めておけば、複数の論点でそのまま使い回せます。逆にここが曖昧なままだと、解雇でも休業でも減給制裁でも、毎回足元がぐらつくことになります。
まとめ
休業手当と平均賃金について、私のつまずきをもとに整理しました。
- 休業手当は、使用者の責に帰すべき事由による休業のとき、平均賃金の60%以上を支払う制度
- 「使用者の責に帰すべき事由」は民法の帰責事由より広く、経営上の障害も含む。天災など不可抗力は対象外
- 本人の体調不良による休業は休業手当の対象外。私傷病は健康保険の傷病手当金、業務上の傷病は労災の領域
- 平均賃金の原則は「3か月間の賃金総額÷暦日数」。最低保障のときだけ労働日数と60%が登場する
- 算定からは、賃金が下がる期間と臨時・3か月超ごとの賃金を除外する(業産使育試臨三法)
- 平均賃金は解雇予告手当・減給制裁・災害補償など、労基法のあちこちで使われる土台になる
止まらない工場で働いていた私には、休業手当は縁のない制度でした。でも縁がなかったのは、たまたまそういう職場だっただけのことです。世の中には仕事が止まる職場があり、体調を崩して働けなくなる人がいる。どんな休業に、どの制度が対応しているのか。その地図を持っておくことは、試験のためだけでなく、自分や身近な人を守ることにもつながると思っています。
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なお、本記事で挙げた数字や要件は記事作成時点のものです。法改正で変わる可能性があるので、受験対策や実務で使う際は、下記の一次情報や最新のテキストで必ず確認してください。
※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。
【一次情報の確認先】
- e-Gov法令検索「労働基準法」第12条(平均賃金)・第26条(休業手当)
- 厚生労働省「平均賃金について」(計算方法の解説)
- 厚生労働省「休業手当(労働基準法第26条)」に関する解説資料


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