【雇用保険シリーズ 第3回】
再就職手当という制度の存在は、2013年に自己都合で退職した当時、すでに知っていた。社労士試験に合格していたから知っていた、というのが正確な言い方になる。
それでも、実際に申請して受け取ったのかどうか、今となってははっきり思い出せない。当時ハローワークから何かお金が振り込まれた記憶はあるのだが、それが基本手当の残りだったのか、再就職手当だったのか、判然としないのだ。
知っているはずの資格者が、自分の受給履歴すら正確に覚えていない。この記事では、再就職手当を中心とした就職促進給付と、教育訓練給付金の制度を整理しながら、「知っていることと、実際に使いこなすことの間にある距離」についても考えてみたい。
第1章:就職促進給付とは何か
第2回で整理した通り、雇用保険の失業等給付は、求職者給付・就職促進給付・教育訓練給付・雇用継続給付の4つに分かれる。このうち就職促進給付は、早期の再就職を後押しするための給付だ。
少し雑学的な話だが、就職促進給付という区分名は、1974年の雇用保険法制定当初から存在する。求職者給付と並んで最初からあった枠組みで、教育訓練給付(1998年創設)や雇用継続給付(1994年創設)よりも歴史が古い。名前は変わっていないが、給付率や要件は何度も改正されてきた。この記事で取り上げる再就職手当の支給率も、後述するように2017年に引き上げられている。
就職促進給付の中心となるのが「再就職手当」と「就業促進定着手当」だ(かつてあった「就業手当」は2025年3月31日をもって廃止されている)。この記事ではこの2つと、教育訓練給付金を取り上げる。
| 給付名 | 対象となる場面 |
|---|---|
| 再就職手当 | 基本手当の受給中に、早期に安定した職に就いたとき |
| 就業促進定着手当 | 再就職手当を受けたうえで、再就職後の賃金が前職より下がったとき |
いずれも「基本手当をもらいながら失業活動をしていた人」が前提になる制度だ。
第2章:再就職手当の受給要件と支給率
再就職手当を受け取るには、いくつかの要件をすべて満たす必要がある。試験で問われやすい主な要件を整理する。
① 待期期間(7日間)が満了していること
基本手当の受給手続き後、7日間の待期期間中に就職した場合は対象外となる。
② 基本手当の支給残日数が、所定給付日数の1/3以上あること
所定給付日数の1/3を切ってしまうと、そもそも対象外になる。逆に、残り日数が多いほど支給率が上がる。
③ 給付制限がある場合は、待期満了後1ヶ月間はハローワーク等の紹介で就職したこと
自己都合退職などで給付制限がかかっている人は、待期期間満了後1ヶ月間に限り、ハローワークか職業紹介事業者の紹介である必要がある。
④ 前職と密接な関わりのある事業所への就職でないこと
⑤ 1年を超えて雇用されることが確実なこと
⑥ 過去3年以内に再就職手当・常用就職支度手当を受けていないこと
一度再就職手当を受け取ると、その受給日から3年間は再度の受給ができなくなる。短期間で転職を繰り返して何度も受け取ることを防ぐための制限だ。
これらをすべて満たした場合、次の支給率で再就職手当が支払われる。
| 支給残日数の条件 | 支給率(2026年現在) | 支給率(2017年1月改正前) |
|---|---|---|
| 所定給付日数の2/3以上を残して就職 | 70% | 60% |
| 所定給付日数の1/3以上を残して就職 | 60% | 50% |
支給額は「基本手当日額(上限あり)×支給残日数×支給率」で計算される。早く就職するほど支給残日数が多く残り、支給率も高くなる。
📝 体験コラム:「もらっていたかどうか、今となっては定かではない」
私が離職したのは2013年3月末、自己都合退職だった。当時の自己都合退職者の給付制限は7日間の待期に加えて3ヶ月。受給資格決定が4月中旬頃だったとすると、給付制限が明けるのは7月中旬頃になり、ちょうど再就職したタイミングと重なる。
被保険者期間は12年ほどだったので、所定給付日数は120日(10年以上20年未満の区分)。給付制限明け直後の再就職だったとすれば、支給残日数はほぼ満額近く残っていたはずで、所定給付日数の2/3(80日)を超える。これは再就職手当の支給率が最も高くなる層にあたる。
ここまでは制度上の計算だ。問題は、自分が実際にこの再就職手当を受け取ったかどうかという記憶だ。
正直に言うと、当時ハローワークから何かお金が振り込まれた記憶がある。それが基本手当の残りだったのか、再就職手当だったのか、今となっては判然としない。社労士に合格していたので制度の存在自体は知っていたはずだが、自分自身の受給履歴を正確に思い出せるわけではなかった。
雇用保険の受給履歴は、本来「雇用保険受給資格者証」に記録が残る。手元に当時の書類が残っていれば確認できたはずだが、十数年も前のことなので、今回はそこまでの裏付けはできなかった。
これは社労士としてはお恥ずかしい話かもしれない。ただ逆に言えば、資格を持っていても、何年も前の自分の受給履歴を正確に記憶しているわけではない、ということでもある。だからこそ伝えたいのは、給付を受けた際の書類は、できるだけ残しておいた方がいいということだ。後になって「あれは何の給付だったか」を確認したくなる日が来るかもしれない。不明な点があれば、ハローワークの窓口に照会すれば履歴を確認してもらえる。
第3章:就業促進定着手当
再就職手当を受け取った人が、再就職先で長く働き続けようとすると、しばしば直面する問題がある。前職より給与が下がってしまうケースだ。早期の再就職を急ぐほど、条件をじっくり選べないまま転職先を決めることもある。こうした賃金低下を補うのが「就業促進定着手当」だ。
主な要件
- 再就職手当の支給を受けていること(これが前提条件)
- 再就職の日から同じ事業主のもとで6ヶ月以上、雇用保険の被保険者として雇用されていること
- 再就職後6ヶ月間の賃金(1日あたりに換算した額)が、離職前の賃金日額より低下していること
支給額の考え方
支給額は「(離職前の賃金日額-再就職後の賃金日額)×再就職後6ヶ月間の賃金の支払基礎となった日数」で計算される。下がった分の差額を6ヶ月分まとめて補填するイメージだ。
ただし上限がある。2026年現在は、基本手当の支給残日数の20%相当額が上限となっている。これは2025年4月の改正によるもので、それまでは30%または40%(再就職手当の支給率に応じて)だった。人手不足の状況などを踏まえ、給与の低い会社で我慢して働くより、より良い条件の会社で働くことを後押しする目的とされている。
| 2025年3月まで | 2025年4月以降 | |
|---|---|---|
| 上限額の算定率 | 支給残日数の30%または40% | 支給残日数の20%(一律) |
📝 試験対策コラム:「再就職手当」と「就業促進定着手当」、もらえる順番に注意
この2つの手当は、名前も似ていて混同しやすいが、もらえる順番が決まっている。就業促進定着手当は、再就職手当をもらっていることが前提条件だ。再就職手当を受け取らずに就業促進定着手当だけを受け取ることはできない。
また、就業促進定着手当は「再就職後に賃金が下がった人」を救済する制度であり、賃金が上がった人や前職と同水準の人は対象にならない。再就職手当が「早く決まったこと」への給付であるのに対し、就業促進定着手当は「再就職後の生活を支える」ための給付という位置づけの違いも意識しておきたい。
第4章:教育訓練給付金
就職促進給付が「再就職した後」を支える制度だったのに対し、教育訓練給付金は「自ら学んで再就職・キャリア形成を目指す人」を支える制度だ。雇用保険の被保険者(在職中・離職後1年以内)が、厚生労働大臣の指定する講座を受講・修了すると、受講料の一部が支給される。
講座は対象範囲によって3種類に分かれる。なお、給付率は2024年10月以降の制度拡充を反映した、2026年現在の内容だ。
| 種類 | 対象講座の例 | 給付率(2026年現在) | 上限額 |
|---|---|---|---|
| 一般教育訓練給付金 | 簿記・ITパスポート・語学など幅広い講座 | 受講料の20% | 10万円 |
| 特定一般教育訓練給付金 | 速やかな再就職・早期のキャリア形成につながる講座 | 受講料の最大50%(基本40%+資格取得等で2024年10月以降10%追加) | 25万円 |
| 専門実践教育訓練給付金 | 看護師・介護福祉士・MBAなど専門性の高い講座 | 受講料の最大80%(基本50%+資格取得+就職で20%追加+2024年10月以降の拡充で賃金上昇時10%追加) | 年間上限64万円(最大3年間で192万円) |
特定一般・専門実践とも、追加給付を受けるには「修了後の資格取得」や「修了から1年以内の雇用保険加入での就職」「賃金上昇」など、基本給付とは別の条件を満たす必要がある。基本給付率だけを見て高い給付率を期待すると、実際の受給額とずれが生じやすいので注意したい。
被保険者期間の要件は、いずれも原則3年以上(初めて受給する場合は1年以上でよい)。
過去に教育訓練給付金を受給したことがある場合、再受給には制限がある。前回の受講開始日以降に新たに3年以上の被保険者期間を積み直し、かつ前回の受給から3年以上経過していなければならない。一度使うと、次に使えるまで実質3〜4年は空くことになる。
📝 試験対策コラム:教育訓練給付金と基本手当は同時にもらえるか
社労士試験では「給付の同時受給」がよく問われる。教育訓練給付金は、公共職業訓練を受講中の場合を除き、基本手当と同時に受け取ることができる。在職中でも離職中でも申請できる点が、再就職手当(基本手当の受給資格者であることが前提)とは異なる仕組みだ。
「失業者しか使えない給付」と思われがちな雇用保険の制度の中で、教育訓練給付金は在職者でも使える数少ない給付だという点も、整理して覚えておきたい。
📝 体験コラム:使わなかったのは「もったいなさ」からだった
教育訓練給付金については、正直なところ自分はほとんど使う機会がなかった。私は基本独学派で、ユーキャンのような通信教材を使う場合でも、上限額(一般教育訓練給付金なら10万円)に近づくほどの費用がかかることはなかった。受講料の20%が戻ってきたとしても、数千円〜1万円程度にしかならない。それなら申請の手間をかけるほどのものでもないと感じていた。
それだけが理由ではない。教育訓練給付金には、一度受給すると次に使えるまで実質3〜4年は新たに被保険者期間を積み直さなければならないという制限がある。もし将来、弁護士のように「学校に通わなければ合格が現実的に難しい」と思える資格を受けることになったとき、そこで初めて専門実践教育訓練給付金のような大きな給付を使いたい。そう考えると、数千円程度のために今この権利を使ってしまうのは、もったいないと感じた。
結果として、今のところその「本当に使うべきとき」はまだ来ていない。教育訓練給付金は、使えば取り返しがつくとは限らない制度だ。少額の講座にすぐ使うか、大きな投資のために残しておくか。これは正解のない判断だが、私は後者を選んだ、という話として書いておきたい。
まとめ
就職促進給付と教育訓練給付金をまとめると、次のようになる。
- 就職促進給付は1974年の雇用保険法制定当初からある古い区分。中心は「再就職手当」と「就業促進定着手当」
- 再就職手当は、所定給付日数の1/3以上を残して再就職すると60%、2/3以上残すと70%の支給率になる(2017年1月の改正前は50%・60%だった)
- 再就職手当には「過去3年以内に受給していないこと」という要件があり、一度受け取ると3年間は再受給できない
- 就業促進定着手当は、再就職後に賃金が下がった場合の補填。再就職手当の受給が前提条件で、2025年4月から上限額が支給残日数の20%に引き下げられた
- 教育訓練給付金は一般・特定一般・専門実践の3種類。被保険者期間は原則3年以上必要だが、初回は1年以上でよい
- 教育訓練給付金は基本手当と異なり、在職中でも申請できる
雇用保険の中でも、就職促進給付と教育訓練給付金は「知っているか・行動するか」で受け取れる金額が大きく変わる制度だ。私自身、社労士でありながら何を受け取ったか正確に思い出せないという、お恥ずかしい体験を今回紹介した。読者の方には、まず雇用保険受給資格者証や過去の振込履歴を確認してみることをお勧めしたい。
次回は、雇用保険シリーズの第4回として、雇用継続給付(育児休業給付・介護休業給付・高年齢雇用継続給付)を取り上げる予定だ。
あわせて読みたい:
社労士 雇用保険とは何か・被保険者の種類【第1回】
社労士 基本手当の受給要件をわかりやすく解説【第2回】
※本記事は筆者個人の体験・見解をもとに作成しています。法律は改正される場合がありますので、最新情報は厚生労働省または公式サイトでご確認ください。
【一次情報の確認先】
・e-Gov法令検索「雇用保険法」
・厚生労働省「雇用保険制度」「教育訓練給付制度」
・ハローワークインターネットサービス「就職促進給付」「教育訓練給付」


コメント