社労士 労働基準法の基本原則をわかりやすく【工場勤務で実感した第1章の中身】

【労働基準法シリーズ 第10回】

前回は休業手当と平均賃金の計算方法を取り上げました。

今回は労働基準法の「第1章 総則」です。第1条から第7条まで、労基法の土台となる基本原則が並んでいます。試験勉強を始めたころ、私はこの章を「とりあえず読んでおく前置き」くらいに思っていました。ところが工場で10年以上働いてきた経験と照らし合わせると、条文ひとつひとつに「ああ、これは現場のあの場面のことだ」と腑に落ちる瞬間がありました。

この記事では、第1条から第7条までの基本原則を、私の体験を交えながら順番に整理していきます。試験対策としても、働く上での基礎知識としても、参考にしていただければと思います。

1.第1条・第2条:労働条件の原則と決定

労働基準法の第1条は、次のような内容です。

「労働条件は、労働者が人たるに値する生活を営むための必要を充たすべきものでなければならない」

つまり、労働条件は「人間らしい生活ができる水準」でなければならない、という宣言です。第2条はそれを受けて、「労働条件は労使が対等の立場で決定すべきものだ」と定めています。

私が食品工場に入社した当時、労働条件について自分から交渉するという発想は、正直まったくありませんでした。雇用契約書に書かれた内容を読み合わせする時間もほとんどなく、「ここに印鑑を押してください」と言われるまま押した記憶があります。当時の私には、労使対等という概念自体がありませんでした。

第2条の後半には、「労働者と使用者は、労働協約・就業規則・労働契約を遵守し、誠実に各々その義務を履行しなければならない」とも書かれています。権利だけでなく、双方に義務があるという点は試験でも問われることがあります。

2.第3条:均等待遇

第3条は、国籍・信条・社会的身分を理由とした労働条件の差別を禁止しています。

「使用者は、労働者の国籍、信条又は社会的身分を理由として、賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」

ここで注意が必要なのは、禁止されているのが「労働条件の差別」であって、採用の差別ではないという点です。採用段階での差別は別の法律の領域になります。試験ではこの区別がよく問われます。

私が働いていた職場では、経営者がある宗教を信奉しており、暗黙の了解として「出世するには入信することが必要だ」という空気がありました。私は入信を拒否していましたが、当時は「これは違法なのか、グレーなのか」と判断がつかないまま過ごしていました。社労士の勉強で第3条を学んだとき、「信条を理由とした労働条件の差別は禁止されている。何かあればこの条文を盾に戦える」と思ったのを覚えています。条文を知っているだけで、気持ちの上でのよりどころになるのだと実感した場面でした。

3.第4条:男女同一賃金の原則

第4条は、性別を理由とした賃金差別を禁止しています。

「使用者は、労働者が女性であることを理由として、賃金について、男性と差別的取扱いをしてはならない」

第3条と似ていますが、第4条が禁じているのは賃金についての差別だけです。労働時間や配置などの労働条件は含まれません。この「賃金のみ」という範囲の狭さは、試験でよく引っかけとして出題されます。

では賃金以外の労働条件に男女差があってもよいのか、というと、合理的な理由があれば認められる場面があります。わかりやすい例が、労働安全衛生法に定められた運搬物の重量限度です。女性には男性より低い上限が設けられており、これは身体的な差異に基づく合理的な区別とされています。第4条を学んだとき、「賃金以外に男女差があること自体がすべて違法なわけではない。身体的な合理性があれば許容される場合がある」という整理が自然に頭に入ってきました。条文の範囲が賃金に限定されている理由が、ここで腑に落ちた気がします。

4.第5条:強制労働の禁止

第5条は、労基法の中でも罰則が最も重い条文のひとつです。

「使用者は、暴行、脅迫、監禁その他精神又は身体の自由を不当に拘束する手段によって、労働者の意思に反して労働を強制してはならない」

罰則は1年以上10年以下の懲役または20万円以上300万円以下の罰金であり、懲役と罰金が併科される場合もあります。労基法の中で最も厳しい水準に設定されています。

私が働いていた食品工場では、夜勤明けにトラブルが発生すると、自主的に残って解消するまで現場を離れないことが続いていました。「残れ」と命令されたわけではありませんが、残らざるを得ない雰囲気の中で動いていたのは確かです。幸いにも、暴行や脅迫といった形で強制されたという経験は私にはありませんでした。ただ、第5条を学んだことで「意思に反した労働の強制」という概念を改めて意識するようになりました。自分の行動が任意であったかどうかを、冷静に振り返るきっかけになった条文です。

5.第6条:中間搾取の排除

第6条は、第三者が労働者の就労に介入して利益を得ることを禁じています。

「何人も、法律に基づいて許される場合の外、業として他人の就業に介入して利益を得てはならない」

「法律に基づいて許される場合」とは、職業安定法に基づく有料職業紹介や、労働者派遣法に基づく派遣業がこれにあたります。逆に言えば、許可を受けていない第三者がマージンを抜いて労働者を斡旋するようなことは、この条文で禁じられています。

試験対策としては「業として」という言葉がポイントです。反復継続して利益を得る意思があるかどうかで判断されます。

私は食品工場を退職後、転職活動でリクルートエージェントを利用しました。社労士の勉強で第6条を学んだとき、「あのサービスは職業安定法に基づく許可を受けているから合法なのだ」とすっきり理解できました。当たり前のように使っていた転職サービスが、実は法律の許可のもとで成り立っているということを、条文を通じて初めて意識した場面でした。

6.第7条:公民権行使の保障

第7条は、労働者が公民としての権利を行使する機会を保障するものです。

「使用者は、労働者が労働時間中に、選挙権その他公民としての権利を行使し、又は公の職務を執行するために必要な時間を請求した場合においては、拒んではならない」

選挙の投票、裁判員としての参加、労働委員会の委員としての活動などが「公民としての権利・公の職務」にあたります。使用者はこれを拒むことができません。

ただし、試験でよく問われるポイントが2つあります。ひとつは、請求された時間を「必要な限度で変更できる」という点です。業務に支障が出る場合、使用者は時間をずらすよう求めることはできますが、完全に拒否することはできません。もうひとつは、この時間に対して賃金を支払う義務があるかどうかは条文上は定められていないという点です。有給にするかどうかは労使間の取り決めによります。

私自身は、恥ずかしながら選挙にあまり関心がなく、有給を使ってまで投票に行こうとは思っていませんでした。ただ、2009年に裁判員制度が始まったとき、「裁判員として呼ばれた場合は労基法第7条の対象になるのだろうか」と気になった記憶があります。答えは「なる」です。裁判員の職務は「公の職務」にあたるため、使用者は拒否できません。制度の発足をきっかけに、第7条の条文を改めて確認した場面でした。

まとめ

労働基準法の第1章は、労基法全体の「土台」にあたる部分です。今回取り上げた第1条から第7条までを簡単に振り返ります。

条文内容
第1条労働条件は人たるに値する生活を営める水準であること
第2条労働条件は労使対等の立場で決定すること
第3条国籍・信条・社会的身分による労働条件の差別禁止
第4条性別を理由とした賃金差別の禁止
第5条強制労働の禁止(労基法最重罰)
第6条中間搾取の排除
第7条公民権行使・公の職務執行のための時間保障

試験では、第3条と第4条の「対象範囲の違い」、第5条の「罰則の重さ」、第7条の「時間変更はできるが拒否はできない」という点がよく出題されます。条文の言葉を正確に押さえておくことが得点につながります。

次回(第11回)は、第9条・第10条の「労働者・使用者の定義」と、第11条・第12条の「賃金・平均賃金の定義」を取り上げます。

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※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合がありますので、最新情報はe-Gov法令検索または厚生労働省の公式サイトでご確認ください。

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