社労士 労働基準法10条の読み方【「その他」と「その他の」で条文の見え方が変わった】

【条文解説シリーズ 第3回】

はじめに

前回の第2回では、労働基準法第9条の「労働者」の定義を、条文の構造から読み解きました。今回はその対になる条文、第10条の「使用者」の定義です。

制度解説シリーズ第11回では、「誰が使用者に当たるのか」という中身——事業主・経営担当者・権限を持つ管理職という3類型——を取り上げました。今回はその内容には深入りしません。代わりに、10条という一文がどういう言葉の並びで作られているかに注目します。

実はこの条文には、法令用語の重要な読み分けポイントが隠れています。「その他」と「その他の」。たった一文字の違いですが、この2つは法律の世界では明確に使い分けられており、どちらが使われているかで条文の意味の取り方が変わります。

この記事で分かること

  • 労働基準法第10条の条文構造(3つの類型がどう一文に収まっているか)
  • 法令用語「その他」と「その他の」の使い分けルール
  • 「労働者に関する事項について」がどこにかかるかという係り受けの読み方

1. 条文の確認

労働基準法第10条は、次のように定めている。

(定義)
第十条 この法律で使用者とは、事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。

これを口語訳すると、次のようになる。

「この法律において『使用者』とは、事業主、事業の経営を担当する者、そのほか、その事業の労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者のことをいう。」

ここで細かい点をひとつ。第9条では「労働者」とかぎ括弧付きで書かれていたのに対し、第10条の使用者には、かぎ括弧が付いていない。条文を書き写すとき、つい第9条と同じ感覚で括弧を付けてしまいそうになるが、原文には付いていない。選択式対策で条文を正確に覚えるなら、こうした表記の細部まで含めて「原文どおり」を意識しておきたい。

一読すると、第9条よりも読みにくい条文だと感じるのではないだろうか。「その他」のあとに長い修飾語が続き、どこで区切って読めばいいのかが分かりにくい。しかし、この読みにくさこそが今回のテーマになる。次の章で、この条文を分解して読んでいく。

2. 条文の構造を分解する

第10条は一文だが、分解すると3つの類型と、それを束ねる言葉でできている。

「この法律で使用者とは、①事業主 又は ②事業の経営担当者 その他 ③その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者をいう。」

接続の言葉に注目する——「又は」と「その他」

①と②の間には「又は」が置かれ、②と③の間には「その他」が置かれている。同じ「並べる言葉」でも、役割が違う。

「又は」は選択的な並列を示す基本の接続詞だ。①事業主と②経営担当者は、「又は」で対等に並べられている。

一方、②と③をつなぐ「その他」は、単なる並列以上の情報を持っている。この言葉の意味は次章で詳しく扱うが、先に構造だけ確認しておくと、③は①②とは別の独立したグループとして条文に追加されている。

「労働者に関する事項について」はどこにかかるか

③の部分は、条文の中で最も長く、係り受けを見誤りやすい。

「その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をする」

「労働者に関する事項について」は、「行為をする」にかかる修飾語だ。つまり③の類型は、「労働者に関する事項」という限定された範囲の中で、事業主のために行為する者を指している。

この係り受けが重要なのは、使用者かどうかが「その人まるごと」ではなく「事項ごと」に判断されるからだ。たとえば、労働時間の管理について権限を持つ課長は、労働時間に関する事項については使用者に該当する。しかし採用について何の権限もなければ、採用に関する事項については使用者ではない。同じ人物が、扱う事項によって使用者になったりならなかったりする。条文が「事項について」という書き方をしているのは、この相対的な判断を予定しているからだ。

「すべての者」という締めくくり

条文の最後は「すべての者をいう」で終わる。第9条が「賃金を支払われる者をいう」と締めたのに対し、第10条はわざわざ「すべての」を付けている。

これは、③の範囲を肩書きや地位で限定させないための言葉だ。部長でも係長でも、役職名がなくても、労働者に関する事項について事業主のために行為していれば漏れなく使用者に含める——「すべての」の一語が、その趣旨を担っている。

3. 法令用語「その他」と「その他の」の読み分け

ここからが今回の本題だ。法律の条文では、「その他」と「その他の」は明確に使い分けられている。

使い分けのルール

「A、B その他の C」……AとBは、Cの中身の例示
AとBはCに含まれる。「Cの例としてAやBがある」という関係になる。

「A、B その他 C」……AとBと、Cは並列
AとBはCに含まれない。別々のグループが並んでいる関係になる。

「の」が一文字あるかないかで、前の言葉が後ろの言葉に含まれるかどうかが変わる。

労基法の中の「その他の」——第3条との比較

同じ労働基準法の中に、対照的な例がある。第3条(均等待遇)だ。

「賃金、労働時間その他の労働条件について、差別的取扱をしてはならない」

こちらは「その他の」。つまり、賃金と労働時間は「労働条件」の例示であり、労働条件という大きな枠の中に含まれている。「賃金や労働時間をはじめとする労働条件全般」という読み方になる。

第10条の「その他」——並列で読む

これに対して第10条は「その他」だ。

「事業主又は事業の経営担当者その他その事業の労働者に関する事項について、事業主のために行為をするすべての者」

「の」がないので、①事業主・②経営担当者と、③行為をするすべての者は並列の関係になる。①②は③の例示ではなく、それぞれ独立した類型として並んでいる。

この読み方は、条文の意味からも裏付けられる。③は「事業主のために行為をする者」だ。事業主本人が「事業主のために」行為するというのは日本語として成り立たない。①事業主は③に含まれようがないからこそ、例示を意味する「その他の」ではなく、並列を意味する「その他」が使われている。言葉のルールと条文の中身が、きちんと対応している。

試験でどう活きるか

選択式で条文の空欄補充が出たとき、「その他」と「その他の」のどちらが入るかは、この使い分けを知っていれば論理的に判断できる。また択一式でも、「事業主は第10条の『事業主のために行為をする者』の例示である」といった趣旨の選択肢が出れば、並列関係を理解していれば誤りだと見抜ける。

丸暗記ではなく「前の言葉が後ろに含まれるか」という一点で判別できるので、他の科目の条文にもそのまま応用が利く読み方だ。

📝 試験対策コラム:9条とセットで「二重の立場」を押さえる

第10条は、第9条とセットで出題されることが多い条文だ。その際に狙われやすいのが、同じ人物が労働者と使用者の両方に該当しうるという論点だ。

たとえば工場長を考えてみる。工場長は会社に雇われ、賃金を支払われている。第9条の2要件(使用される+賃金を支払われる)を満たすので労働者だ。同時に、部下の労働時間管理や人事について権限を持っていれば、その事項については「事業主のために行為をする者」として第10条の使用者にも該当する。

これは矛盾ではない。第9条と第10条は別々の定義であり、判定も別々に行われるからだ。「労働者に該当する者は使用者には該当しない」という趣旨の選択肢が出たら、誤りだと判断できる。

もうひとつ、第2章で見た「事項について」の係り受けもここで効いてくる。使用者性は人単位ではなく事項単位で判断される。「課長は使用者に該当するか」という問いには、「どの事項についてかによる」というのが条文に忠実な答えになる。この相対性を理解していれば、肩書きで一律に判断させようとする引っかけに対応できる。

4. 体験コラム:条文の読み方は、テキストの「後ろの方」に書いてあった

「その他」と「その他の」の使い分けを、私は勉強の早い段階では知りませんでした。

知ったきっかけは、使っていたテキストの終盤でした。たしか一般常識に関する章のあたりだったと思いますが、法令用語の説明がまとめて載っているページがあったのです。正直、最初に目を通したときは「へえ」くらいの流し読みでした。労基法や年金のような主要科目に比べれば、優先度の低い知識に見えたからです。

ところが、その後に条文を読み返したとき、見え方が変わりました。第10条の「その他」の前後で、事業主と「事業主のために行為をする者」が別のグループとして並んでいる。あの一文字のルールを知ってから読むと、条文の切れ目が自分で判断できるようになっていたのです。テキストの後ろの方に置かれた地味な知識が、実は条文全体の読み方を支える道具だった。後から振り返って、ようやくその価値がわかった内容でした。

もうひとつ、10条を勉強していて考えたのが、働いていた食品工場のことです。あの職場では、主任クラスも現場の製造ラインで作業をしていて、シフトは経験の長い一般社員が組んでいました。採用や解雇、労働時間の管理について、現場の誰がどこまでの権限を持っているのか、はっきりしない職場でした。

当時は「誰が使用者か」を考えるまでもなく、曖昧なまま回っている。それが実態でした。でも条文が「労働者に関する事項について」という書き方をしていることを知ると、この曖昧さの整理の仕方が見えてきます。使用者かどうかは人まるごとではなく事項ごとに決まる。シフトを組んでいたあの先輩は、労働時間に関する事項については使用者に近い行為をしていたのかもしれない。一方で採用については何の権限もない。条文の「事項について」という一言は、現場のこういう入り組んだ実態をそのまま受け止められる作りになっているのだと、自分の職場を思い出しながら腑に落ちました。

まとめ

労働基準法第10条は、「事業主」「事業の経営担当者」「労働者に関する事項について事業主のために行為をするすべての者」という3つの類型を、「又は」と「その他」でつないだ条文です。

構成要素役割
又は①事業主と②経営担当者を対等に並べる接続詞
その他(「の」なし)①②と③を並列でつなぐ。③は①②の例示ではない
労働者に関する事項について「行為をする」にかかる修飾語。使用者性を事項単位で判断させる
すべての者肩書きや地位による限定を許さない締めくくり

「その他」と「その他の」の読み分けは、第10条だけでなく、あらゆる条文に応用できる道具です。「の」があれば前は後ろの例示、なければ並列。この一点を知っているかどうかで、初見の条文の構造をつかむ速さが変わります。

条文は中身を覚えるだけでなく、接続の言葉や助詞の一文字まで含めて読む対象だということを、今回は10条を通して整理しました。

※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。

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一次情報の確認先

・e-Gov法令検索「労働基準法」第10条・第3条

・厚生労働省 労働基準情報

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