社労士 労働時間とは【始業前の朝礼・清掃の体験談】第14回

その他(雑談)

【労働基準法シリーズ 第14回】

私が工場で働いていたころの始業前は、食堂のある建屋で着替え、7:30ごろにタイムカードを打刻し、工場に入って清掃をして、7:50からの朝礼に出る、という流れだったと思います。始業は8:00です。

この記事で答える問いは、「始業前の着替え・清掃・朝礼・申し送り・待機は、労基法上の『労働時間』になるのか。何で決まるのか」です。

読んでわかること:

  • 労働時間は、会社の決めごとではなく客観的に決まる
  • 判断の軸は「使用者の指揮命令下にあるか」
  • 試験で問われやすい判例と、休憩との関係

なお、制度や判例の扱いは変わる場合があります。この記事は当時の情報をもとにしていますので、最新の内容は公式サイトでご確認ください。

1.労働時間は条文に定義がない

労働基準法32条は、労働時間の上限(原則として1日8時間・週40時間)を定めています。ただし、そもそも「労働時間とは何か」を定義した条文は、私の知る限りありません。上限は決まっているのに、何を数えるかは条文からは読み取れないのです。

そこで判断の基準になるのが判例です。最高裁第一小法廷平成12年3月9日判決(三菱重工業長崎造船所事件)では、労働時間とは「労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間」である、という考え方が示されたと理解されています。

この判決は、着替えなどの準備行為にも触れています。準備行為を事業所内で行うことを義務付けられ、または余儀なくされたときは、特段の事情がない限り、指揮命令下にあると評価される、という趣旨です。ただし、この事件は、就業規則に始業に間に合うよう更衣等を済ませる旨の定めがあっただけでなく、作業服などの装着が義務付けられ、怠ると不利益もあった事案です。そのため「着替えは常に労働時間」と読むのではなく、義務付けや余儀なくされた状況があったかどうかを見る、と考えるのが安全です。

ここで大切なのは、労働時間が客観的に決まるという点です。就業規則や契約書に「8:00からが労働時間」と書いてあっても、それだけで決まるわけではありません。実態として、会社の指揮命令下にあったかどうかで判断されます。

2.場面別の整理表

分かれ目になりやすいのは、次の2点だと考えるとわかりやすいです。

  • その行為が義務付けられているか、自由か
  • 業務と結びついているか

あくまで目安であり、実際の判断は事情によって変わります。

着替え

  • 労働時間になりやすい:着用が義務で、職場で着替えることが求められている
  • 労働時間になりにくい:自宅で着替えてもよく、職場での着替えが自由

清掃

  • 労働時間になりやすい:参加が決まりで、業務の一部になっている
  • 労働時間になりにくい:完全に任意で、参加しなくても不利益がない

朝礼

  • 労働時間になりやすい:参加が決まりで、業務連絡が行われる
  • 労働時間になりにくい:任意参加で、出なくても支障がない

申し送り

  • 労働時間になりやすい:業務の引き継ぎとして行うことが求められている
  • 労働時間になりにくい:本人が自発的に行っているだけ

手待ち時間・仮眠・休憩中の呼び出し

  • 労働時間になりやすい:呼ばれたらすぐ対応する必要がある(仮眠なら、呼び出しへの即応が義務付けられている)
  • 労働時間になりにくい:完全に業務から離れ、自由に過ごせる

研修・教育訓練

  • 労働時間になりやすい:参加が義務で、業務と結びついている
  • 労働時間になりにくい:任意参加で、業務と直接関係しない

健康診断

健康診断は、種類によって整理が変わります。昭和47年9月18日基発602号の趣旨に沿った整理です。

  • 特殊健診:労働時間として扱われ、所定労働時間内の実施が原則です。
  • 一般健診:労働時間かどうかというより、受診時間の賃金をどうするかの問題として、労使協議で定めるものとされています。支払が望ましいとされています。

着替え・清掃・朝礼・申し送りは、「やらないと困るのか、やらなくてもよいのか」が軸になっています。手待ち時間・仮眠・休憩中の呼び出しは、「労働から離れることが保障されているか」が軸です。会社から義務付けられていたり、やらざるを得ない状況だったりするなら、労働時間にあたる可能性が高くなります。

休憩との関係

休憩時間は、労基法34条3項で自由に利用させなければならないとされています。そのため、休憩中でも呼ばれたらすぐ対応しなければならない状態であれば、自由とは言いにくく、労働時間として扱われる可能性があります。「何もしていない時間」と「労働から解放されている時間」は、別のものだということです。

3.体験① 始業前の着替え・清掃・朝礼

ここからは、私が工場で経験した場面を、整理表の2つの軸(義務付けか、業務と結びついているか)で振り返ります。法律の専門家としての判断ではなく、私個人の経験と感想として読んでください。

私の場合は、始業が8:00でした。食堂のある建屋で着替え、7:30ごろにタイムカードを打刻し、工場に入って清掃をする、という流れだったと思います。そして朝礼は、始業の10分前の7:50に始まっていました。

このうち、清掃と朝礼は参加が決まりでした。朝礼では作業の指示や連絡事項があり、清掃は仕事の一部という位置づけでした。

着替えについては、作業着の上下、帽子、長靴が会社で決まっていました。着替えは、職場でするよう決まっていました。長靴は、2,000円くらいの補助が出て、自分で買って持参するものでした。長靴は白でしたが、その色が暗黙の了解だったのか、決まり事だったのかは分かりません。

賃金のほうは、8:00より前の時間は計算されていなかったと思います。賃金が増えた記憶があるのは深夜勤務のときだけです。残業は機会が少なく、ついた記憶もあまりありません。

ここで補足です。労働時間にあたるのに賃金が払われていなければ、未払賃金の問題になりえます。賃金の額や支払の有無は契約などで定まる部分もありますが、法定時間外の割増賃金(37条)などは、契約で自由に外せるものではありません。ただし、この記事では賃金の扱いまでは詳しく扱いません。

整理表の軸に当てはめると、清掃と朝礼は、参加が決まりで、現場の業務と結びついています。そのため、労働時間にあたる可能性が高いと考えられます。着替えも、会社指定の服装で、職場でするよう決まっていましたので、労働時間にあたる可能性があります。ただし、実際にどう判断されるかは、就業規則や運用の実態によって変わります。当時の会社が違法だったと言い切れる材料は、私の手元にはありません。

このときの気持ちについては、次の章で書きます。

4.体験② 申し送り

早番は、10分ほど前に現場に入って、引き継ぎをしていました。この時間が賃金に反映された記憶はありません。

上司や会社から言われていたというより、現場の慣習で、自然にそうなっていたという印象です。そうしないと結局、遅番が損をする感じがありました。

申し送りは、次の担当者に業務を引き継ぐための作業です。整理表の軸では、業務と結びついていて、やらなければ仕事が回らない場合は、労働時間になりやすい側に入ります。一方、本人が好意で早く来ているだけなら、扱いは変わる可能性があります。

私の場合は、現場の慣習で自然にそうなっていた、という印象です。10分前に入らないと遅番が損をする感じがありました。これが、判例のいう「余儀なくされた」にあたるかどうかは、私には判断できません。なお、明示の指示がなくても、黙示の指示があれば、指揮命令下にあると判断されうるとされています。

当時の私は、おかしいと思っていました。それでも、一族経営で労働組合もない会社でしたので、騒いでもどうにもならないと諦めていました。

この気持ちは、申し送りだけに向いていたわけではありません。始業前の無給の時間全般に対してです。着替えも含まれていたと思いますが、記憶はぼやけています。どちらかというと、失望感のほうが大きかったと思います。一方で、怒りや悲しさといった気持ちは、勉強に気合が入る方向に働きました。

5.体験③ 機械停止・原料待ちの待機

機械が止まったり、原料が来るのを待ったりすることがありました。やることがなければ、持ち場で待機します。原料の計量があればヘルプに入り、責任者がいるときは現場の掃除をしていました。

深夜で責任者がいないときは、現場で休んでいました。ただし、会社が決めた休憩時間ではなく、待機の合間に自分で休んでいたものです。呼ばれたらすぐ対応する、という前提でした。次の工程の再開時期は、こちらから聞きに行っていました。持ち場を離れていても、何とかなっていました。

この時間は、法律上の「休憩」(34条3項で、自由に利用させなければならないもの)というより、手待ち時間として整理するのが近いと思います。「呼ばれたらすぐ対応」という状態は、労働から完全に解放されているとは言いにくいからです。すぐ対応を求められる待機は、実際に作業をしていなくても、労働時間にあたる可能性が高いとされています。

なお、研修は私の職場にはありませんでした。健康診断は、時間内に工場内で実施していたと思います。

6.試験対策のポイント

試験では、次の点を押さえておくと整理しやすくなります。

  • 判断の軸は指揮命令下(三菱重工業長崎造船所事件):労働時間は、労働者が使用者の指揮命令下に置かれている時間です。就業規則や契約の書き方で決まるわけではなく、客観的に判断されます。
  • 仮眠時間と労働からの解放(大星ビル管理事件):最高裁第一小法廷平成14年2月28日判決では、仮眠室での待機と警報等への対応が義務付けられていた事案で、実作業のない仮眠時間であっても、労働からの解放が保障されていなければ、労基法上の労働時間にあたる、という趣旨が示されたとされています。仮眠時間が常に労働時間になる、という意味ではありません。
  • すぐ対応を求められる待機は、労働時間にあたるとされる:作業をしていなくても、すぐ対応できるよう待機している時間は、労働時間にあたるとされます。ただし、待機の態様による点には注意が必要です。
  • 休憩との区別:休憩は労基法34条3項で自由に利用させるものです。呼び出しに備える時間は、自由とは言いにくく、休憩にならない可能性があります。

実務面では、厚生労働省の「労働時間の適正な把握のために使用者が講ずべき措置に関するガイドライン」も参考になります。始業・終業時刻の確認や記録の考え方が示されています。あわせて、労働時間の例示として、次のようなものが挙げられています(要約です。原文は「3 労働時間の考え方」でご確認ください)。

  • 使用者の指示により、業務に必要な準備行為(着用を義務付けられた所定の服装への着替え等)や、業務終了後の後始末(清掃等)を事業場内で行った時間
  • 使用者の指示があれば即時に業務に従事することを求められており、労働から離れることが保障されていない状態で待機等している時間(手待時間)
  • 参加が業務上義務づけられている研修・教育訓練の受講の時間

まとめ

労働時間は、会社の決めごとではなく、客観的に決まります。判断の軸は「使用者の指揮命令下にあるか」で、着替え・清掃・朝礼・申し送り・待機は、義務付けの有無や業務との結びつきで分かれます。休憩は自由に利用できる時間であり、呼び出しに備える待機とは区別されます。

私の場合は、始業前の清掃と朝礼、申し送りの時間が、賃金に反映されていなかったと記憶しています。当時は諦めていましたが、怒りや悲しさは、勉強の気合に向かいました。ただし、最終的な判断は個別の事情によります。この記事は、結論を断定するものではありません。

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確認先

※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合があります。最新情報は公式サイトでご確認ください。

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