【雇用保険シリーズ 第6回】
「早期退職制度」と「希望退職制度」、どちらも会社を辞めるときの制度として名前を聞いたことがあると思う。だが、この2つは名前が似ているだけで、趣旨も雇用保険上の扱いもまったく違う。
実は自分が勤めている会社にも、似たような制度がある。詳しくは書けないが、ある年齢帯に達した社員が応募すれば、転職活動の支援(紹介会社の斡旋など)と、月給の数ヶ月分にあたる金銭が受け取れる、という制度だ。自分自身も対象になる年齢に近づいてきており、しかも一番上乗せ額が大きくなる年齢帯に入ろうとしているタイミングでもある。利用を考えるなら、まず「これは雇用保険上どう扱われるのか」を知っておきたい、というのがこの記事を書く実感としての出発点だ。
この記事では、早期退職制度・希望退職制度の違いを整理した上で、どちらが「特定受給資格者」になりやすいのか、その判定基準を見ていく。
第1章:早期退職制度と希望退職制度、何が違うのか
まず前提として、この2つは制度としての「設置の仕方」がまったく違う。
| 早期退職優遇制度(選択定年制度) | 希望退職制度 | |
|---|---|---|
| 設置のされ方 | 恒常的・常設の人事制度 | 期間限定で募集される |
| 主な目的 | 社員に退職という選択肢を用意し、人員構成を整える | 人員整理(経営状況の悪化など) |
| 応募のタイミング | いつでも、対象年齢になれば応募可能 | 募集期間中のみ |
| 退職の性格 | 本人の自発的な選択 | 会社側の事情による募集に本人が応じる |
早期退職優遇制度は、定年を迎える前に、本人の選択で退職できる制度だ。最近は定年年齢を撤廃する企業も出てきている中で、「定年という節目を待たずに、自分のタイミングで退職という選択肢を持てるようにする」という制度として導入する会社が増えている印象がある。自分の勤め先にある制度も、ちょうどそうした議論が出てきた時期に始まったものだ。
一方、希望退職制度は、会社の業績悪化など、人員整理が必要な事情があるときに、期間を区切って募集される。「今回だけ」「この期間内だけ」という限定性があるのが特徴で、常設の制度ではない。
名前が似ているために「早期退職=会社都合」「希望退職=自己都合」のように、なんとなく逆のイメージで覚えている人もいるかもしれないが、実際はこの「常設か、期間限定か」という設置のされ方の違いが、雇用保険上の扱いを分ける大きなポイントになる。次の章で具体的に見ていく。
第2章:特定受給資格者になりやすいのはどちらか
雇用保険の基本手当は、「特定受給資格者」(会社都合)に該当するかどうかで、給付制限の有無や所定給付日数が大きく変わる。早期退職・希望退職のどちらに当たるかによって、この判定がどう変わるのかを整理する。
希望退職募集に応じた場合は、特定受給資格者になりやすい
希望退職募集に応じて離職した場合、厚生労働省が定める特定受給資格者の判定基準の中に、次のような条件がある。
- 人員整理を目的とした希望退職の募集であること
- その措置が導入された時期が、離職者の離職前1年以内であること
- 募集期間が3ヶ月以内であること
この3つの条件を満たす希望退職募集に応じて離職した場合は、特定受給資格者として扱われる。「会社都合の解雇」のような直接的な事由ではないが、人員整理という会社側の事情に応じた離職として、優遇される仕組みになっている。
早期退職優遇制度に自発応募した場合は、原則自己都合扱い
一方、恒常的に設けられている早期退職優遇制度に、本人が自発的に応募して退職した場合は、原則として自己都合退職として扱われる。
ここで意識しておきたいのが、「退職勧奨」との違いだ。会社から退職するよう勧められた場合(退職勧奨)は、原則として特定受給資格者に該当する。ただし、従来から恒常的に設けられている早期退職優遇制度に応募して離職した場合は、この「退職勧奨」には該当しないとされている。
つまり、自分の勤め先にあるような「年齢に達したら自分の意思で応募できる」タイプの制度は、会社から個別に背中を押されたわけではなく、本人の自発的な選択という扱いになるため、特定受給資格者には当たらない可能性が高い。
| 特定受給資格者になりやすいか | |
|---|---|
| 希望退職募集(人員整理目的・導入1年以内・募集3ヶ月以内)に応じた離職 | なりやすい |
| 早期退職優遇制度(常設)への自発応募 | 原則ならない(自己都合扱い) |
| 退職勧奨に応じた離職 | なりやすい(ただし常設の早期退職優遇制度への応募は除く) |
自分の勤め先の制度がどちらに近いかを考えると、「対象年齢になった人が自由に応募できる」という常設型の仕組みなので、希望退職募集のような人員整理目的・期間限定の条件には当てはまらない。つまり、利用する場合は自己都合退職として扱われる可能性が高い、というのが現時点での自分の理解だ。
ただ、これで話が終わるわけではない。「自己都合扱いになりやすい」というだけで、絶対にそうなるとは言い切れない部分もある。次の章では、この判定が個別事案によってどう変わりうるのか、もう少し掘り下げてみたい。
第3章:それでも判定はケースバイケース
第2章で「早期退職優遇制度への自発応募は原則自己都合扱い」と書いたが、これは「絶対にそうなる」という意味ではない。最終的な判定は、ハローワークが離職証明書の内容などを見て個別に行う。
特定受給資格者でなくても、特定理由離職者になる道がある
特定受給資格者の基準には当てはまらなくても、「企業整備による人員整理等で希望退職の募集に応じて離職した者」は、特定理由離職者として扱われる場合がある、という基準も用意されている。
特定理由離職者は、特定受給資格者と完全に同じ優遇ではないが、被保険者期間の要件が「1年間に6ヶ月」に緩和される、給付制限が課されないなど、自己都合の一般離職者よりは優遇される位置づけだ。第2回で整理した通り、ここは「特定受給資格者=明確な会社都合」「特定理由離職者=やむを得ない自己都合に近い扱い」という整理になる。
つまり、「自己都合扱いになりやすい」という制度であっても、実際に離職するときの状況(会社の経営状況、制度導入の経緯、退職を勧められた経緯があったかどうかなど)によっては、特定理由離職者として扱われる可能性も残っている。
判断するのはハローワーク、自分で決められない
ここが大切なポイントだが、「自分は会社都合だと思う」「特定受給資格者に当たるはずだ」と本人がいくら主張しても、それだけで決まるわけではない。会社が作成する離職証明書の離職理由欄の記載と、本人の認識が一致しないこともある。食い違いがある場合は、ハローワークが事実確認を行い、最終的に判定する。
もし自分が将来この制度を利用する場面が来たら、まずやるべきことは「会社の制度がどういう経緯で作られたものか」「離職証明書にどう記載される予定か」を確認することだと思う。退職してから「思っていた扱いと違った」とならないよう、利用を検討する段階で人事に確認しておく方が、実務的には安全だろう。
第4章:📝試験対策コラム・体験コラム
試験対策コラム:覚えておきたい3つの数字
特定受給資格者の判定基準で、希望退職募集に関して問われやすいのが次の3つの条件だ。
- 人員整理を目的とした募集であること
- 措置の導入時期が、離職前1年以内であること
- 募集期間が3ヶ月以内であること
この3つがセットで問われることが多く、どれか一つでも外れると特定受給資格者に当たらなくなる。「人員整理目的でも、恒常的に毎年募集しているなら対象外」という形で、3つの条件をすべて満たす必要がある、という点を意識して覚えておきたい。
もう一つ、選択式で引っかけやすいのが「退職勧奨」と「早期退職優遇制度への応募」の関係だ。退職勧奨を受けた離職は原則特定受給資格者に当たるが、「従来から恒常的に設けられている早期退職優遇制度等に応募して離職した場合は、これに該当しない」という除外規定がセットになっている。退職勧奨=会社都合、とだけ覚えると、この除外規定を見落として間違えやすい。
体験コラム:知識が判断材料になる、という実感
正直なところ、今回この記事を書きながら一番感じたのは、「試験のための知識のつもりで勉強していたことが、自分の選択に関わってくる」ということだった。
自分の勤め先にある制度は、年齢が上がるほど受け取れる金額が大きくなる設計になっていて、自分はちょうどその金額が一番高くなる年齢帯に近づいている。利用するかどうかはまだ決めていないが、もし利用するとなれば、退職後に基本手当をどういう扱いで受け取れるのか(自己都合扱いとして給付制限がかかるのか)を知っているかどうかで、退職のタイミングや生活の見通しの立て方がまったく変わってくる。
社労士の勉強をしていなければ、「早期退職」と「希望退職」の違いも、特定受給資格者の判定基準も、知らないまま退職届を出していたかもしれない。資格を持っていることが、いつか自分自身の選択を後押しする場面が来るかもしれない、ということを、今回改めて実感した。
ついでに、この上乗せ金が税制上どう扱われるのかも気になって調べてみた。「退職金」という名前ではなくても、退職に伴って一括で受け取るお金は、実質的に退職所得として扱われ、通常の給与より税負担が軽くなる仕組みがあるらしい。一方で、会社がどう源泉徴収するかによって扱いが変わる部分もあるようで、自分で調べただけでは断定できないところも残った。
退職のタイミングや金額の大きさによっては、税金の扱い一つで手元に残る金額が大きく変わってくる。これは雇用保険の知識だけでは足りない領域で、いざ自分が利用を検討する場面になったら、税務署や税理士、あるいは会社の総務に確認してから判断するべきだと改めて感じた。制度を知っているつもりでも、人生設計に関わるお金の話は、自己判断で済ませず専門家の確認を挟む方がいい。
※税金の扱いについては一般的な原則を紹介したものであり、個別の判断は税務署や税理士にご確認ください。
まとめ
早期退職制度と希望退職制度の違い、特定受給資格者になるかどうかの判定基準を整理すると、次のようになる。
- 早期退職優遇制度(選択定年制度)は常設の人事制度で、本人の自発的な選択で退職する制度。希望退職制度は人員整理を目的に、期間を限定して募集される制度
- 希望退職募集に応じた場合、「人員整理目的」「導入時期が離職前1年以内」「募集期間3ヶ月以内」の3条件を満たせば特定受給資格者になりやすい
- 早期退職優遇制度への自発応募は、原則自己都合扱い。退職勧奨に該当するケースとは区別される
- 条件に当てはまらなくても、人員整理等による希望退職募集への応募であれば、特定理由離職者として扱われる余地が残っている
- 最終的な判定はハローワークが個別に行う。自分の制度がどちらに近いか、離職前に確認しておくことが実務的には安全
早期退職や希望退職は、誰にとっても他人事ではないテーマだと思う。制度の名前だけで判断せず、その制度がどういう経緯で設けられたものかを確認する習慣をつけておきたい。
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・社労士 雇用保険 基本手当の受給要件をわかりやすく解説【第2回】
※本記事は筆者個人の体験・見解をもとに作成しています。法律は改正される場合がありますので、最新情報は厚生労働省または公式サイトでご確認ください。
【一次情報の確認先】
・e-Gov法令検索「雇用保険法」
・ハローワークインターネットサービス「特定受給資格者及び特定理由離職者の範囲の概要」
・厚生労働省「雇用保険制度」
・国税庁「退職所得となるもの」「退職金と税」


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