社労士 賃金の定義をわかりやすく【何が賃金で、何が賃金でないのか】

【労働基準法シリーズ 第12回】

はじめに

前回は労働者・使用者の定義(第9条・第10条)を取り上げました。

今回は第11条「賃金の定義」です。

「賃金とは何か」という問いは、一見すると簡単に見えます。働いた対価としてもらうお金、それが賃金でしょう——そう思う人がほとんどではないでしょうか。

ところが実際の試験では、この「賃金かどうか」の判断が問われる問題が繰り返し出てきます。退職金は賃金に含まれるのか。チップはどうか。会社が用意した食事や寮は賃金なのか。

こうした問いに答えるには、条文上の「賃金の定義」を正確に理解しておく必要があります。

第7回では賃金の支払いルール(5原則)を取り上げました。「どう払うか」のルールです。今回は「そもそも何が賃金なのか」という入口の話です。この2つは別の論点ですが、試験では両方が出題されます。混同しないよう、今回で「賃金の定義」をきっちり押さえておきましょう。

1.第11条「賃金の定義」——条文の2つの要件

労働基準法第11条はこう定めています。

「この法律で『賃金』とは、賃金、給料、手当、賞与その他名称の如何を問わず、労働の対償として使用者が労働者に支払うすべてのものをいう」

条文を読んで気づくことが2つあります。

①「名称の如何を問わず」

賃金・給料・手当・賞与という言葉が並んでいますが、これは例示です。名前がどうであれ、要件を満たせば「賃金」として扱われます。逆に言えば、「これは賃金ではない」と名前をつけても、実態が要件を満たしていれば賃金です。

②「労働の対償として使用者が支払うもの」

これが賃金かどうかの本質的な判断基準です。2つの要素に分けると、次のようになります。

  • 「労働の対償」であること——労働者が働いたことへの見返りであること
  • 「使用者が支払う」こと——会社(使用者)が払うものであること

この2つを満たすものが賃金です。逆に、どちらかを欠けば賃金には当たりません。

試験での判断の軸はシンプルです。「使用者が、労働の対償として払うかどうか」。ここに当てはめて考えれば、個別のケースを正確に判断できるようになります。

2.賃金に含まれるもの・含まれないものの整理

第11条の2要件「労働の対償」「使用者が支払う」を軸に、具体的なケースを整理していきます。

チップは賃金か?

飲食店やホテルで客から受け取るチップは、賃金ではありません。チップを払うのは客であり、使用者ではないからです。「使用者が支払う」という要件を満たしていない。したがって労基法上の賃金には該当しません。

退職金は賃金か?

退職金は、就業規則や労働契約で支給が定められている場合に限り、賃金に該当します。制度として明文化されていれば賃金、任意の恩恵的な給付であれば賃金ではない——という整理です。試験では「支給が定められていれば賃金」という条件付きの答えが正解になります。無条件に「賃金だ」「賃金ではない」と覚えてしまうと引っかかります。

通勤手当は賃金か?

通勤手当は賃金に含まれます。使用者が支払い、就業規則等で支給が定められているものだからです。ただし第2回(割増賃金)で触れたとおり、通勤手当は割増賃金の計算基礎からは除外されます。「賃金に含まれるかどうか」と「割増賃金の計算基礎に含まれるかどうか」は別の話です。混同しやすい論点なので注意が必要です。

現物給付(食事・社宅)は賃金か?

食事や住居の提供など、お金以外の形での給付は「現物給付」と呼ばれます。現物給付がまったく賃金にならないかというとそうではありません。労働協約に定めのある現物給付は賃金に含まれます。一方で、福利厚生として会社が任意に提供しているもの(法令・労働協約の根拠がないもの)は賃金には該当しません。試験では「労働協約に定めがあるかどうか」が判断の分かれ目になります。

慶弔見舞金・結婚祝い金は賃金か?

慶弔見舞金や結婚祝い金は、原則として賃金ではありません。これらは「任意的・恩恵的な給付」であり、労働の対償とは言えないからです。ただし、就業規則や労働協約で支給条件が明確に定められている場合は、賃金に該当するとされることがあります。退職金と同じ構図です。「定めがあれば賃金、恩恵的な給付なら賃金ではない」という軸で考えると整理しやすいです。

整理すると次の表のようになります。

給付の種類賃金か否か判断の根拠
チップ(客からの)✗ 賃金でない使用者が払うものではない
退職金条件付き○支給が就業規則等で定められていれば賃金
通勤手当○ 賃金使用者が払う労働の対償
現物給付(食事・社宅)条件付き○労働協約に定めがあれば賃金
慶弔見舞金条件付き○支給条件が就業規則等で定められていれば賃金
福利厚生(任意提供)✗ 賃金でない労働の対償ではなく恩恵的給付

3.工場体験から見た「これは賃金か?」

社労士の勉強で第11条を学んだとき、真っ先に頭に浮かんだのは自分の職場の話でした。工場で10年以上働いてきた経験を振り返ると、「あれは賃金だったのか、そうでなかったのか」と改めて考えさせられるものがいくつかありました。

資格手当——これは間違いなく賃金だった

第7回でも触れましたが、私の職場には資格手当の制度がありました。会社が指定する資格を取得すれば、毎月の給与に上乗せされる仕組みです。社労士は月8,000円、危険物取扱者など難易度の低めな資格にも手当がついていました。昇給がほとんど期待できない環境だったので、資格手当は「自分の行動で賃金を増やせる数少ない手段」でした。就業規則に支給条件が定められており、毎月の給与として支払われていた。これは第11条の要件を満たす賃金です。

夜勤手当——これも賃金

3交代勤務だったので、深夜帯に働いた分の割増賃金が発生していました。これは法律上の割増賃金であり、賃金の一部です。ただ当時の私は、明細の数字を眺めながら「深夜割増がついてもこの金額か」と思っていた記憶があります。制度として存在していることは知っていましたが、計算の根拠まで理解していたかというと、正直怪しいところです。社労士の勉強で割増賃金の計算方法を学んで初めて、自分の明細を正確に読めるようになりました。

会社の寮——これは賃金だったのか

私の職場には、高卒で入社した社員向けの寮がありました。近隣の相場より明らかに安い家賃で入居できる仕組みです。ただし地元出身で会社から近い社員は対象外だった気がします。大卒の社員も対象外でした。

この寮の提供は賃金に該当するのでしょうか。現物給付が賃金になるには「労働協約に定めがある」ことが条件です。私の職場に労働組合があったかどうか自体、当時はよくわかっていませんでした。労働協約の存在を意識したことも、もちろんありません。

仮に労働協約の定めがなければ、寮の提供は福利厚生として会社が任意に行っている恩恵的給付であり、賃金ではない。一方で、就業規則に寮の利用条件が明記されていれば、状況は変わる可能性があります。

今の知識で振り返ると「あの寮の提供が賃金に該当したかどうかは、就業規則と労働協約の内容による」という結論になります。高卒社員だけが対象という条件がついていたことも含め、制度を知っていれば当時もう少し自分たちの待遇を正確に把握できたかもしれません。

賃金とは何かを知ることで、自分がもらっていたものの意味が初めて見えてきた気がします。

4.第12条「平均賃金の定義」

第12条は平均賃金の定義を定めた条文です。計算方法の詳細は第9回で取り上げましたので、ここでは「定義上おさえておくべきポイント」に絞って整理します。

平均賃金とは何か

平均賃金は「算定事由の発生した日以前3か月間に、その労働者に対して支払われた賃金の総額を、その期間の総日数で割った金額」です。ここで重要なのは、「賃金の総額」に何が含まれるかという点です。第11条で定義された「賃金」が計算の土台になります。つまり第11条と第12条はつながっています。賃金の定義が曖昧なままだと、平均賃金の計算も正確にできません。第11条を先に押さえる意味がここにあります。

計算から除外される賃金

第9回でも触れましたが、平均賃金の計算から除外される賃金があります。

  • 臨時に支払われた賃金(結婚手当など)
  • 3か月を超える期間ごとに支払われる賃金(年2回の賞与など)
  • 法令・労働協約に基づかない現物給与

この除外項目と第2章の整理を重ねると、理解が深まります。たとえば退職金は「支給が定められていれば賃金」ですが、臨時に支払われるものとして平均賃金の計算からは除外されます。「賃金である」ことと「平均賃金の計算に含まれる」ことは、また別の話です。

5.試験対策のポイント

第11条・第12条は、択一式・選択式ともに出題される基本論点です。覚える数字は少ない分、条文の言葉と判断の軸を正確に押さえることが得点につながります。

①判断の軸は「労働の対償として使用者が払うか」

賃金かどうかの判断は、常にこの1点に戻ります。名称は関係ありません。「労務提供の見返りとして会社が払うものか」で考える習慣をつけると、初めて見る問題でも迷いにくくなります。

②チップ・福利厚生は賃金でない

チップは使用者が払うものではないため賃金ではありません。福利厚生として任意に提供されるものも、労働の対償ではないため賃金には該当しません。「もらえるもの=賃金」ではない、という整理が必要です。

③退職金・現物給付は「条件付き」

退職金は支給が就業規則等で定められていれば賃金、現物給付は労働協約に定めがあれば賃金です。「原則として賃金ではないが、定めがあれば賃金になる」という条件付きの理解が必要です。無条件に「賃金だ」「賃金でない」と覚えると引っかかります。

④「賃金か」と「割増賃金の計算基礎に含まれるか」は別の話

通勤手当は賃金ですが、割増賃金の計算基礎からは除外されます。この2つの論点は試験でセットで問われることがあります。「賃金であること」と「計算基礎に含まれること」を混同しないよう注意してください。

⑤平均賃金の計算基礎も「賃金」が土台

第12条の平均賃金は、第11条の「賃金」を土台に計算します。臨時の賃金や3か月超ごとの賃金は除外されますが、その除外対象も「賃金に該当するもの」の中から選ばれます。第11条→第12条という流れを意識しておくと、両方の論点が頭の中でつながります。

まとめ

今回は労働基準法第11条「賃金の定義」を中心に、何が賃金に含まれ、何が含まれないのかを整理しました。

給付の種類賃金か否か判断の根拠
チップ(客からの)✗ 賃金でない使用者が払うものではない
退職金条件付き○支給が就業規則等で定められていれば賃金
通勤手当○ 賃金使用者が払う労働の対償
現物給付(食事・社宅)条件付き○労働協約に定めがあれば賃金
慶弔見舞金条件付き○支給条件が就業規則等で定められていれば賃金
福利厚生(任意提供)✗ 賃金でない労働の対償ではなく恩恵的給付

判断の軸は一貫しています。「労働の対償として使用者が払うものか」——この1点です。名称がどうであれ、実態がこの要件を満たすかどうかで賃金かどうかが決まります。

また、「賃金かどうか」と「割増賃金の計算基礎に含まれるか」は別の話です。通勤手当は賃金ですが割増賃金の計算基礎からは除外されます。平均賃金の計算でも、臨時の賃金や3か月超ごとの賃金は除外されます。「賃金である」ことと「各種計算に含まれる」ことを切り分けて理解しておくことが、試験での得点につながります。

工場で10年以上働いていたころ、自分がもらっているものが法律上どういう性質のものかを考えたことはほとんどありませんでした。資格手当も夜勤手当も、明細に書かれた数字として受け取るだけでした。高卒社員だけが入れる寮の提供が賃金に該当するかどうかも、当時は考えたこともなかった。社労士の勉強で第11条に触れたとき、工場での10年間が少し違う角度から見えた気がしました。

「賃金とは何か」を知ることは、自分がもらうべきものを正確に把握することにつながります。試験対策としてだけでなく、働く人間として知っておく価値のある知識だと思っています。

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※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合がありますので、最新情報はe-Gov法令検索または厚生労働省の公式サイトでご確認ください。

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