【条文解説シリーズ 第2回】
はじめに
労働基準法第9条は、社労士試験では「労働者性の判断」という論点でよく登場する条文です。制度解説シリーズ第11回でも、指揮命令下にあるかどうか、報酬が労務の対価かどうかといった判断基準を中心に取り上げました。
今回はその内容には触れません。代わりに、9条という条文そのものの作られ方に注目します。法律の条文がどういう型で書かれているか、どの言葉がどこにかかっているかを正確に読む力は、択一式・選択式どちらの対策にも直結します。
この記事で分かること
- 労働基準法第9条の条文構造(どこで2つの要件が並んでいるか)
- 「職業の種類を問わず」という一言がどこにかかる修飾語か
- 似た構造を持つ他の定義条文との読み方の比較
1. 条文の確認
労働基準法第9条は、次のように定めている。
(定義)
第九条 この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。
これを口語訳すると、次のようになる。
「この法律において『労働者』とは、どんな職業であるかにかかわらず、事業または事務所に使用されている者であって、賃金を支払われている者のことをいう。」
一読すると短い条文だが、社労士試験ではこの一文の中の言葉の並びそのものが出題対象になる。次の章で、この条文を分解して読んでいく。
2. 条文の構造を分解する
第9条は短い一文だが、分解すると3つのパーツでできている。
「この法律で『労働者』とは、①職業の種類を問わず、②事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、③賃金を支払われる者をいう。」
①②③の順に見ていく。
①「職業の種類を問わず」=適用範囲を限定しない言葉
この一言は、後に続く「使用される者」「賃金を支払われる者」という要件に、職業による例外を作らせないための言葉だ。位置としては条文の冒頭に置かれており、後半の要件全体にかかる。
つまり「職業の種類を問わず」は、特定の業種だけを労働者から除外する余地をあらかじめ封じている。試験でこの言葉が問われるときは、「○○業に従事する者は労働者に含まれない」という選択肢が誤りだと判断させる役割を持つ。
②「事業又は事務所に使用される者で」=1つ目の要件
「使用される」という言葉が要件の核心になる。ここで注目したいのは、「事業又は事務所」と2つの言葉が並んでいる点だ。
両方とも「場所」を指す言葉である点では同じだが、法律が分けているのは「活動か場所か」ではなく、そこで行われている仕事の種類による区分だ。「事業」が指すのは、工場・建設現場・店舗のように、ものを作る・運ぶ・売るといった現場の仕事が行われている場所。「事務所」が指すのは、書類処理や経理・管理といった事務作業が行われている場所だ。
なぜ分けて書く必要があったのか。もし条文に「事業」としか書いていなければ、「うちは工場や店舗のような現場仕事をしていない、書類仕事だけの事務所だから労基法の『事業』には当たらない」という抜け道の主張が出てくる可能性がある。「事業又は事務所」と両方書くことで、現場系の仕事場であっても、事務系の仕事場であっても、どちらも漏れなく対象に含める、という作りになっている。
③「賃金を支払われる者をいう」=2つ目の要件
「で」という助詞をはさんで、②の要件に③の要件がつなげられている。この「で」は、②と③が両方とも満たされて初めて労働者に該当するという、並列ではなく積み上げの関係を示している。
条文を読むときに見落としやすいのは、②と③が「または」ではなく「で」によって結ばれている点だ。仮にこれが「または」であれば、使用されているだけで労働者になり得るし、賃金を受け取っているだけでも労働者になり得る。しかし実際の条文は「で」でつながれているため、両方を満たすことが必要になる。
「者」が2回出てくる理由
条文を読むと、「使用される者」「賃金を支払われる者」と、「者」という言葉が2回登場する。これは2つの別々の要件をそれぞれ「者」という形で完結させ、それを「で」でつなぐことで、最終的に1つの「労働者」という定義に統合する書き方になっている。法律の定義条文では、複数の要件を別々の文節で完結させてから接続するという型がよく使われる。この型を意識して読めると、初見の条文でも構造を素早くつかめるようになる。
📝 試験対策コラム:他の定義条文との比較で読み方を鍛える
条文の構造を読む力は、9条だけで終わらせず、似た型を持つ他の条文と比較することで定着する。
労働契約法第2条との比較
労働契約法第2条は、労働者を次のように定義している。
「この法律において『労働者』とは、使用者に使用されて労働し、賃金を支払われる者をいう。」
労基法9条と並べると、要件の組み立てがほぼ同じであることが分かる。
| 条文 | 要件1 | 要件2 |
|---|---|---|
| 労基法9条 | 事業又は事務所に使用される者 | 賃金を支払われる者 |
| 労契法2条 | 使用者に使用されて労働する者 | 賃金を支払われる者 |
「使用される」+「賃金を支払われる」という2要件の積み上げ構造は共通している。違いは、労基法9条が「事業又は事務所」という場所・現場を主語に置いているのに対し、労契法2条は「使用者」という人を主語に置いている点だ。この違いは、労基法が事業場単位での適用を前提にした法律であることと関係している。
読み方のコツを試験問題に応用する
択一式の文理解釈問題では、条文の言葉を別の表現に言い換えた選択肢が出ることがある。たとえば「事業又は事務所に使用される者で、賃金を支払われる者」を「事業主に雇用され、対価を受け取る者」のように言い換えた選択肢が出ても、要件の積み上げ構造(②と③が「で」でつながれ、両方必須であること)を理解していれば、表現が変わっても中身が同じだと判断できる。
逆に、「または」「もしくは」のように要件を緩める言葉に置き換えられていたら、それは誤りの選択肢である可能性が高い。条文の助詞ひとつ(で/または)にまで注意を向けることが、文理解釈問題での得点につながる。
※この記事の内容は当時の情報・解釈に基づくものです。条文や運用は変更される場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。
4. 体験コラム:試験作成者の視点で条文を読み直す
勉強を続ける中で、「もし自分が試験を作る側なら、どこを問うか」と考えるようになりました。
真っ先に思い浮かんだのが、労基法9条と労契法2条の組み合わせです。「事業又は事務所に使用される者」と「使用者に使用されて労働する者」。意味としてはどちらも「使用従属関係にある者」を指しており、制度の理解としては同じです。だからこそ、記憶が曖昧になったときに入れ替えて覚えていても気づきにくい。ここを選択式で突いてくることは十分ありえます。
なぜ法律によって言葉が違うのかを自分なりに整理したとき、一つの考え方に行き着きました。労契法は「契約」の法律です。契約は人と人、あるいは人と法人の間で結ぶもの。場所や施設とは契約できません。だから労契法2条の主語は「使用者」(人・法人)でなければ筋が通らない。一方、労基法は行政が事業場を単位として監督する法律です。「どの工場か」「どの事務所か」という場所の単位で管理するため、「事業又は事務所」という表現になっている。
この整理をしてから、2つの条文を混同することがなくなりました。意味が同じだからこそ言葉の違いに理由がある、という見方で条文を読むと、記憶の精度が変わります。
まとめ
労働基準法第9条は、「職業の種類を問わず」「事業又は事務所に使用される者で」「賃金を支払われる者」という3つの要素が積み上げられてできている条文です。
| 構成要素 | 役割 |
|---|---|
| 職業の種類を問わず | 業種による例外を封じる限定しない言葉 |
| 事業又は事務所に使用される者 | 1つ目の要件(現場系・事務系どちらも対象) |
| 賃金を支払われる者 | 2つ目の要件(「で」により両方必須) |
労働契約法第2条など、似た構造を持つ条文と比較しながら読むことで、「言葉の型」を見抜く力が鍛えられます。択一式の文理解釈問題では、この型への意識が正答率を左右します。
条文は意味をつかむだけでなく、助詞や接続の形まで含めて正確に読む対象だということを、今回は9条を通して整理しました。
※本記事は筆者個人の体験談です。試験制度や法律は変更される場合がありますので、最新情報は公式サイトでご確認ください。
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一次情報の確認先
- e-Gov法令検索「労働基準法」第9条・「労働契約法」第2条
- 厚生労働省 労働基準情報:労働基準法に関するFAQ


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